真夏の水分補給戦略|スポドリ・経口補水液・水の使い分けを救急医が解説

5月の熱中症記事の続編。真夏の練習・大会で命を守る水分補給を救急医が解説。「のどが渇いたら飲む」が遅すぎる理由、スポーツドリンク・経口補水液(OS-1)・水の使い分け、量とタイミングの計算式、水だけ大量に飲むと倒れる低ナトリウム血症の危険まで。

真夏の水分補給戦略|スポドリ・経口補水液・水の使い分けを救急医が解説

【この記事の要約】 真夏のサッカーの水分補給の要点:①「のどが渇いたら飲む」は遅く、渇きを感じた時点で体重の1〜2%は失われている。②飲み物は強度と発汗量で使い分ける——日常は水、長時間の練習・試合はスポーツドリンク、脱水・体調不良時は経口補水液(OS-1)。③量の目安は運動2〜3時間前に5〜7mL/kg、運動中は15〜20分ごとに150〜250mL、練習前後の体重差で個人補正。④水だけ大量に飲むと「運動誘発性低ナトリウム血症」で倒れることがある。執筆:救急科専門医。

前回の記事(サッカーの熱中症対策|危険なサインと応急処置・予防法)では、暑熱順化やWBGT(暑さ指数)による中止判断、倒れた選手への応急処置といった「予防と救命の全体像」をお伝えしました。今回はその続編として、多くの現場で意外とふわっとしたまま運用されている「何を・いつ・どれだけ飲むか」という水分補給の各論に、一歩踏み込んで整理していきます。

インターハイ本大会も目前。真夏の連戦を選手が最高の状態で戦い抜くために、そして倒れる選手を一人でも減らすために、飲み物の話を医学的な根拠とともに見ていきましょう。

1.「のどが渇いたら飲む」では、もう遅い

まず、いちばん大事な原則からお伝えします。のどの渇きは、水分補給を始める合図としては「遅すぎる」のです。

私たちの体は、のどの渇き(口渇感)を感じたとき、すでに体重のおよそ1〜2%の水分を失っていると考えられています。しかもこの口渇感、運動に集中していたり、興奮していたりすると、さらに鈍くなります。「まだ大丈夫」と感じているうちに、体はどんどん脱水へ傾いていくのです。

なぜ1〜2%が問題なのか。数字で見ると深刻さが分かります。

  • 体重の1%の水分を失うだけで、持久的なパフォーマンスが落ち始める
  • 体重の2%を超えると、走力・スプリント能力に加えて、集中力・判断力まではっきり低下する

体重60kgの選手なら、わずか1.2kg(約1.2L)の発汗で、プレーの質も安全判断の質も両方が落ちるということです。真夏のサッカーでは、1試合で2〜3Lの汗をかくことも珍しくありません。

だからこそ、真夏の水分補給は「渇いたら飲む」ではなく「渇く前に、時間で区切って飲む」が鉄則になります。具体的な量は第4節でお伝えします。

2. 汗で失うのは「水」だけではない——塩分という落とし穴

脱水対策というと「水を飲む」ことばかり意識しがちですが、ここに大きな落とし穴があります。汗は真水ではない、ということです。

汗にはナトリウム(塩分)が含まれています。濃度には個人差がありますが、大量に汗をかけば、体からは水と一緒に相当量の塩分も抜けていきます。「たくさん汗をかいた日に、水だけをがぶ飲みする」——これは、抜けた塩分を補わないまま、残った塩分をさらに水で薄めてしまう行為です。

この「水だけ大量補給」が引き起こす最も怖い病態が、第6節でお伝えする運動誘発性低ナトリウム血症です。真夏の長時間練習では、失うのは水と塩分の両方であり、補うのも水と塩分の両方でなければならない。これが飲み物選びの出発点になります。

3. スポーツドリンク・経口補水液・水の使い分け

では実際に、何を飲めばいいのか。よく混同される3つを、糖分・塩分(ナトリウム)・浸透圧という3つのものさしで整理します。浸透圧とは、ざっくり言えば「体液と比べた飲み物の濃さ」で、吸収のされ方に関わります。

飲み物 糖分 塩分(ナトリウム) 特徴と向いている場面
なし なし 1時間以内の軽い運動・日常の水分補給に。大量発汗時に水だけだと塩分不足のリスク
スポーツドリンク やや多い(約6%) 中くらい 体液に近い濃さ(アイソトニック)。糖と電解質で水分吸収と補給を両立。1時間超の練習・試合の主役
経口補水液(OS-1等) 少なめ 多い 体液より薄い(ハイポトニック)。塩分が高く吸収が速い。脱水・体調不良・熱中症を疑う「治療寄り」の場面

ポイントを整理します。

スポーツドリンク(ポカリスエット、アクエリアス等)は、糖分が約6%前後含まれ、体液に近い濃さに設計されています。糖には水分の吸収を助ける働きがあり、汗で失う電解質もある程度補えるため、長時間・高強度の運動中の”主役”として最も使いやすい飲み物です。

経口補水液(OS-1、アクアソリタ等)は、名前が似ていますが位置づけが違います。塩分濃度がスポーツドリンクより高く、糖分は控えめ。体液より薄く設計されているため吸収が速く、すでに脱水している・下痢や嘔吐がある・熱中症の初期症状が出ているといった場面に向く「治療寄り」の飲み物です。裏を返すと、元気なときに水代わりにがぶ飲みする飲料ではありません(塩分の摂りすぎになります)。「困ったときのOS-1、平常時のスポドリ」と覚えてください。

は、1時間以内で終わる軽い運動や、日常のこまめな補給には十分です。ただし真夏の長時間練習で水だけに頼ると、第6節の低ナトリウム血症のリスクが出てきます。

💡 “飲む冷却”という視点も:シャーベット状のアイススラリーは、飲みながら体の内側から深部体温を下げられる飲み物です。運動前や休憩中に有効で、詳しくは前回の熱中症記事の「最新の予防策」で解説しています。

4. 量とタイミング——「計算式」で管理する

「こまめに」「適度に」では、現場は動けません。目安となる数字を持っておきましょう。日本スポーツ協会や国際的なスポーツ医学の指針をもとにした、実用的な目安です。

① 運動の前(2〜3時間前) 体重1kgあたり5〜7mLを目安に飲んでおきます。体重60kgの選手なら約300〜400mL。試合直前の一気飲みではなく、前もって満たしておくのがコツです。

② 運動の最中 15〜20分ごとに150〜250mL(コップ1杯程度)を、時間で区切って飲みます。のどの渇きを待ちません。サッカーは飲水タイミングが限られるので、給水タイム・ハーフタイムで確実に飲む運用をチームで決めておきます。

③ 運動の後 失った水分を積極的に戻します。目安は「失った体重の1.25〜1.5倍」。運動後も汗や尿で水分は出ていくため、減った分ちょうどではやや足りず、少し多めに戻すのが合理的です。

そして、最も正確で、お金もかからない方法が「体重測定」です。

練習前後で体重を量る——減った体重1kgが、失った水分およそ1Lにあたります。「今日は1.5kg減った=約1.5L失った」と分かれば、次回の補給量を具体的に調整できます。汗のかき方には大きな個人差があるので、自分の発汗量を知ることが、既製の目安よりも確実です。

尿の色も手軽な指標になります。濃い黄色は水分不足のサイン、薄い麦わら色なら十分に足りている目安です。

5. 塩分・電解質タブレットの使いどころ

「じゃあ塩分はどう足すの?」という疑問に答えます。塩分補給が特に必要になるのは、次のような場面です。

  • 1回2時間を超える長時間の運動
  • 大量に汗をかく選手(練習後にウェアが白く塩を吹く人は、汗の塩分が多いタイプ)
  • 真夏の連戦・二部練習など、発汗が積み重なる

こうした場面では、スポーツドリンクに加えて塩分タブレット・電解質パウダー・塩飴などで塩分を補います。ただし注意点が2つ。

ひとつは、塩飴・塩タブレットだけに頼らないこと。塩分は摂れても水分は摂れないので、必ず水分とセットで考えます。もうひとつは、摂りすぎも良くないこと。塩分の過剰摂取は胃の不快感や、持病(高血圧など)のある人には負担になります。「大量発汗の日に、水分と一緒に補う」——この原則を外さなければ大丈夫です。

6.【最重要】水だけ大量は逆に危険——運動誘発性低ナトリウム血症

ここが、今回いちばんお伝えしたい医学的なポイントです。「熱中症が怖いから、とにかく水をたくさん飲ませる」——この善意が、別の重大な事故を招くことがあります。

汗で塩分を失っている体に、塩分の入っていない水ばかりを大量に流し込むと、血液中のナトリウム濃度が薄まっていきます。これが運動誘発性低ナトリウム血症(EAH)です。血中ナトリウムが基準値(およそ135mmol/L)を下回った状態を指します。

症状は、初期には吐き気・頭痛・むくみ・ぼんやりするなど、実は熱中症とよく似ています。ここが恐ろしいところで、「熱中症だ、もっと水を飲ませよう」と水を追加すると、低ナトリウム血症をさらに悪化させてしまうのです。重症化するとけいれん・意識障害を起こし、最悪の場合は脳がむくんで(脳浮腫)命に関わります

特にリスクが高いのは、次のようなケースです。

  • 長時間・低〜中強度の運動(ゆっくり長く動く場面ほど、水を飲む機会が多く飲みすぎやすい)
  • 「熱中症が怖いから」と、塩分抜きの水を意識的に大量摂取している
  • 体格が小さい選手(同じ量でも血液が薄まりやすい)

防ぐ方法はシンプルです。長時間の運動では、水だけでなく塩分も一緒に補うこと。スポーツドリンクを基本にし、大量発汗の日は塩分を足す。そして「たくさん飲めば飲むほど安全」という思い込みを捨てること。水分補給は、不足も過剰もどちらも危険な、“ちょうどよさ”が命を守る領域なのです。

7. 救急医として、最後にお伝えしたいこと

救急外来で夏に運ばれてくる選手を見ていると、水分補給がうまくいかなかったケースには、いくつかの共通したパターンがあります。

「暑さで食欲が落ち、朝ごはんも水分も足りないまま練習に入った」「試合に集中していて、給水を1回飛ばした」「熱中症が心配で水ばかり大量に飲んでいた」——どれも、ほんの少しの知識と習慣で防げたものばかりです。

今回の要点を振り返ります。

  • のどが渇いたら遅い。渇く前に、時間で区切って飲む
  • 飲み物は強度と発汗量で使い分け。日常は水/長時間はスポドリ/脱水時は経口補水液
  • 量は前に5〜7mL/kg・中は15〜20分ごとに150〜250mL・後は失った体重の1.25〜1.5倍。迷ったら練習前後の体重測定
  • 水だけ大量はEAH(低ナトリウム血症)で逆に危険。長時間は塩分もセットで

倒れてからの対応(意識の確認・30分以内の全身冷却・救急要請)については、前回の熱中症記事で詳しく解説しています。「正しく飲んで予防する」今回の話と、「倒れたときに救う」前回の話、この2つをセットにして、チーム全員で夏を乗り切っていただけたらと思います。

なお、本サイトでは 全国47都道府県の高校サッカーリーグ順位 を毎日更新しています。お気に入りのチームを応援しながら、選手たちが安全に夏を戦えるよう、こうした体づくりの情報にも目を向けていただけたら嬉しいです。

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よくある質問

Q. 水とスポーツドリンクと経口補水液は、どう使い分ければよいですか?

A. 運動の強度と発汗量で使い分けます。1時間以内の軽い運動や日常の水分補給は水で十分です。1時間を超える練習や試合で汗を大量にかく場面ではスポーツドリンク(糖と電解質で吸収と補給を両立)が向きます。すでに脱水気味・体調不良・熱中症を疑う場面では、塩分濃度が高く糖が控えめな経口補水液(OS-1など)が適します。経口補水液は「治療寄り」の飲み物なので、元気なときに水代わりにがぶ飲みするものではありません。

Q. どのくらいの量を、いつ飲めばよいですか?

A. 目安は、運動の2〜3時間前に体重1kgあたり5〜7mL(体重60kgなら約300〜400mL)、運動中は15〜20分ごとにコップ1杯(150〜250mL)です。もっとも正確なのは練習前後で体重を量る方法で、減った体重1kgが失った水分約1Lにあたります。運動後は失った体重の1.25〜1.5倍の量を数時間かけて戻すと、汗や尿で出ていく分まで補えます。

Q. のどが渇いてから飲むのでは遅いのですか?

A. 遅いことが多いです。のどの渇きを感じた時点で、すでに体重の1〜2%程度の水分が失われていると考えられます。体重の1%を失うだけで持久力が落ち始め、2%を超えると走力や集中力・判断力がはっきり低下します。真夏の運動中は「のどが渇く前に、時間で区切って飲む」計画的な補給が基本です。

Q. 水をたくさん飲めば飲むほど安全ですか?

A. いいえ、水だけを大量に飲むと逆に危険です。汗で塩分(ナトリウム)も失われているところに水ばかり足すと、血液中のナトリウムが薄まる「運動誘発性低ナトリウム血症」が起こることがあります。吐き気・頭痛・けいれん・意識障害を招き、重症では脳がむくんで命に関わります。長時間の運動では、水だけでなく塩分(スポーツドリンク・経口補水液・塩分タブレット等)も一緒に補うことが大切です。

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