兵庫の新興勢力・AIE国際高校が、2026年インハイ予選決勝で滝川第二と3度目の対戦へ。プリンス関西1部の神戸弘陵に3-1で勝った彼らは、通信制高校×プロ運営という「第三の道」を歩む組織。元アーセナルGKコーチが指導する「日本で最もブンデスリーガに近い組織」の取り組みを、Dr.Kazu Soccerが読み解く。
2026年6月、淡路島から始まる兵庫サッカー界の変化
2026年6月5日、兵庫県のインターハイ予選準決勝で、予想を覆す結果が出た。
東播・淡路リーグ1部所属のAIE国際高校が、プリンスリーグ関西1部の強豪・神戸弘陵学園に 3-1で勝った のである。これで同校は2年連続の決勝進出を果たし、明日6月7日、ある「因縁の相手」と再び対戦する。
その相手は、兵庫県の強豪・滝川第二高校。AIE国際にとって、滝川第二は2024年度選手権決勝(0-0からPK敗)、2025年度インハイ決勝(3-3からPK4-5敗)と、過去2度、いずれもPK戦で敗れた相手 である。
AIE国際は、「日本で最もブンデスリーガに近い組織」を自称している。元アーセナルのGKコーチが指導し、通信制高校のしくみを活用して在学中から欧州へ選手を送り出す。そのプロジェクトの中身を見ていきたい。
上船利徳という人物:神村学園からドイツのピッチへ
このプロジェクトの中心にいるのが、上船利徳総監督である。
上船氏は、鹿児島の神村学園で全国大会に出場した後、東京国際大学を経て、ドイツのKFC UERDINGENでプロサッカー選手として活動した経歴を持つ。
怪我により現役を引退した後、帰国した同氏は指導者の道へ進む。サッカースクールの設立や明治大学体育会サッカー部でのコーチを経験し、多くの選手をJリーグなどのプロの世界へ送り出してきた。
この大学指導での経験が、後のプロジェクトの原点となった。上船氏は、日本の育成システムでは 18歳から22歳の受け皿が事実上「大学サッカー」に限られ、高校から直接海外やプロへ挑戦するルートが細い という課題に向き合ったのである。
「高校年代から直接世界へ羽ばたける、サッカーを生活の中心に据えた育成環境を作りたい」。その思いから、上船氏は2021年、淡路島で「相生学院高等学校サッカー部」の強化プロジェクトを立ち上げた。
2023年秋:66名の転校
しかし、プロジェクトは順調には進まなかった。
2023年秋、学校側と運営・指導方針を巡る対立が表面化し、同年10月、上船監督が解任された。
このとき、プロジェクトの理念と環境を求めて集まっていた66名の部員の大半が、学校ではなく指導者と環境を選んだ。そして、2023年11月9日、上船氏が代表を務める合同会社KACHIは、国際バカロレア(IB)認定校でもある通信制の「AIE国際高等学校」と新たに業務提携を結び、「AIE国際高校サッカー部」を正式に発足 させたのである。
選手が「学校」ではなく「指導理念と環境」を選んだという点で、日本の高校スポーツでは珍しい出来事だった。欧州のクラブユースに近い考え方が、ここに表れている。
なぜ「日本で最もブンデスリーガに近い組織」なのか
AIE国際の独自性を語るうえで、外せない3つの要素がある。
①通信制高校×プロ運営の「第三の道」
日本の高校年代の育成は長らく、「高体連の部活動」と「Jクラブユース」の2つによって支えられてきた。AIE国際は、そのどちらでもない第三の道を歩んでいる。
通信制高校の柔軟なカリキュラムにより、生徒は 在学中でも学業を続けながら、欧州のクラブへ長期間の練習参加に行くことができる。全日制高校なら出席日数の不足で休学や退学を余儀なくされるところを、AIE国際なら挑戦できる。「高校卒業を待たずに、チャンスが来た瞬間に海外へ出ろ」。上船氏のこの考え方を支えているのが、通信制というしくみである。
②海外経験の豊富な指導陣
AIE国際の指導陣は、日本の高校サッカーでは珍しい顔ぶれである。
ジェリー・ペイトンは、アイルランド代表として1990年ワールドカップに出場した元GK。引退後はイングランド・プレミアリーグの アーセナルFCで、アーセン・ヴェンゲル監督の下、15年間GKコーチを務めた 人物である。
そのペイトン氏が、淡路島で日本の高校生を直接指導している。
加えて、ジュニアユース総監督のエジソン氏は、読売クラブやベルマーレ平塚でプレーした後、川崎フロンターレのトップチームコーチを12年間務めたブラジル人指導者 である。チームには、南米仕込みの個人技と、局面を1人で打開する発想が持ち込まれている。
③広い施設環境
淡路島の広い土地を活かし、AIE国際は 天然芝5面、人工芝1面、屋内人工芝1面 のトレーニング環境を持っている。
選手たちは学校から徒歩30秒の学生寮で共同生活を送る。あえて2〜4名の相部屋制を採用し、他者と空間を共有する中で、将来の海外移籍やプロでの共同生活を見据えた「共存力」を学ぶしくみになっている。栄養管理の面でも、淡路島の地元食材を使った学食を自前で運営し、体づくりを支えている。
OBが示す「在学中から世界へ」の考え方
AIE国際の考え方は、すでに実績として表れている。
福井悠人(前所属:賢明学院中)は、AIE国際の前身である相生学院に進学し、高校在学中の2021年6月、J3カマタマーレ讃岐への加入内定とJFA・Jリーグ特別指定選手認定を受けた。「高校卒業を待たずに直接プロへ」という上船氏の考えを、初めて形にした選手である。福井は2021年から2024年まで讃岐でJ3を経験し、2025年からは関東サッカーリーグ1部の東邦チタニウムへ移籍した。
日髙光揮(前所属:ガンバ堺)は、2022年にJ1ヴィッセル神戸へ加入。加入直後の同年8月、スペイン2部のCDアトレチコ・パソへ期限付き移籍した。AIE国際が掲げる「世界へのパイプ」を示す出来事だった。約1年後に神戸に復帰した日髙は、本来のボランチからサイドバックへとコンバートされ、2026年現在もヴィッセル神戸に所属。J1リーグやACL(AFCチャンピオンズリーグエリート)の舞台でプレーしている。
この2人のOBは、AIE国際が「機会損失を最小化し、選手のキャリアを最大化する」という考え方を、実際の進路として形にしていることを示している。
「3度目の正直」:6月7日、滝川第二との決勝へ
そして、6月7日の決勝を迎える。
AIE国際にとって滝川第二は、過去に2度、決勝で対戦し、いずれもPK戦の末に敗れた相手である。
| 大会 | 試合結果 |
|---|---|
| 2024年度 全国高校サッカー選手権 兵庫県予選 決勝 | 0-0(延長0-0、PK敗)vs 滝川第二 |
| 2025年度 全国高校総体(インハイ)兵庫県予選 決勝 | 3-3(PK4-5)vs 滝川第二 |
| 2026年度 全国高校総体(インハイ)兵庫県予選 決勝 | 6/7(予定)vs 滝川第二 |
明日の6月7日の決勝は、過去2回とは状況が違う。
直前の準決勝で、AIE国際は 前年度選手権王者でプリンスリーグ関西所属の神戸弘陵に3-1で勝った。プリンスリーグに所属していないチームが、プリンス1部所属の優勝候補に勝ったという点で、兵庫の勢力図に変化を感じさせる勝利だった。
AIE国際は、過去2回の決勝のころから大きく力をつけている。長年「兵庫2強(滝川第二・神戸弘陵)」と呼ばれてきた2校に割って入り、「新・3強」の一角として名前が挙がるようになった。
明日の決勝は、AIE国際にとって 初の全国大会出場 をかけた一戦であり、3年がかりの「3度目の正直」である。
結び:淡路島から日本サッカーへのメッセージ
AIE国際は、「新興の強豪校」という枠だけでは語れない。日本の育成のしくみに対して、別のやり方を示している存在である。
「学校の看板」よりも「指導理念と環境」を優先する欧州型の考え方。プロのアカデミーに近い施設と指導陣。そして、「全国制覇」を超えた「選手個人のキャリアの最大化」という目標。
高校サッカーを追いかけてきた者として、彼らの挑戦に深い敬意を抱いている。日本の若い選手が、学校教育の枠組みに縛られず、自らの意志で世界を目指せる環境が、淡路島で形になりつつある。
明日6月7日の決勝の結果がどうあれ、AIE国際の挑戦はまだ始まったばかりだ。いつか、ブンデスリーガで活躍する日本人選手の中に、AIE国際出身の選手が出てくるかもしれない。
関連リンク
参考文献
- AIE国際高等学校公式サイト
- AIE国際高校サッカー部 公式(フットボールNAVI)
- ALLSTARS CLUB「相生学院サッカー部の上船利徳総監督のご紹介」
- THE ANSWER「高体連の環境に疑問 淡路島で実現した『3年間同じ部活』に縛られない理想の育成」
- サカママ「『早くから海外に挑戦できる環境を』日本で最も世界に近い高校サッカー部の取り組みとは」
- 高校サッカードットコム「AIE国際が神戸弘陵に3-1快勝で決勝へ」(2026年6月5日)
- ヴィッセル神戸公式(日髙光揮選手プロフィール)
- カマタマーレ讃岐公式(福井悠人選手 加入内定発表 2021年)