グロインペイン症候群(鼠径部痛)|サッカーで股の付け根の痛みが治らない理由を救急医が解説

サッカーで股の付け根が痛む「グロインペイン症候群」は、病名ではなく場所の名前です。2015年のドーハ合意では原因を内転筋・腸腰筋・鼠径管・恥骨・股関節に分けて考えます。100人の調査では内転筋が61%で最多、44%の選手は複数の原因が重なっていました。休むだけでは治らず、運動療法の群は受け身の治療の群より約6倍多く痛みなく復帰しています。中高生では骨盤の剥離骨折や大腿骨頭すべり症が紛れ込み、すべり症は膝の痛みだけで始まることがあります。予防のコペンハーゲン・アダクションの効果と限界まで、救急科専門医が解説します。

グロインペイン症候群(鼠径部痛)|サッカーで股の付け根の痛みが治らない理由を救急医が解説

【この記事の要約】 「グロインペイン症候群」は病名ではなく、痛む場所の名前です。2015年のドーハ合意では、原因を内転筋・腸腰筋・鼠径管・恥骨・股関節などに分けて考えるようになりました。100人の選手を調べた研究では内転筋が61%で最多、しかも44%の選手は複数の原因が重なっていました。「休めば治る」は半分だけ正しく、長引いた鼠径部痛の臨床試験では、運動療法の群は受け身の治療の群より約6倍多く(23人対4人)痛みなく復帰しています。そして中高生では、骨盤の剥離骨折や大腿骨頭すべり症が紛れ込みます。とくにすべり症は、股関節ではなく膝の痛みだけで始まることがあります。予防にはコペンハーゲン・アダクションが有効で、大人の選手では鼠径部の不調が41%減りました。ただし育成年代での効果はまだ確かめられていません。

腰椎分離症(腰)、ハムストリング肉離れ(太もも裏)、オスグッド病(膝の前)、シンスプリントと疲労骨折(すね・足)、前十字靭帯(ACL)損傷(膝の中)と続けてきた「成長期のケガ」シリーズ、今回は股の付け根です。

インサイドキックのたびに、股の付け根がズキッとする。朝ベッドから起き上がるときに下腹部が痛む。アップで体が温まると走れてしまうので、そのまま練習を続ける。そして気づけば、半年たっても治っていない——。

グロインペインがやっかいなのは、原因が1つではないことです。「股関節が痛い」で1年を棒に振る選手がいるのは、痛みの出どころを特定しないまま「休む→戻る→また痛む」を繰り返してしまうからです。

そしてもう1つ。救急医として強く伝えたいのは、股の付け根の痛みの中には、グロインペインのふりをした別の病気が混ざっているということです。今回はそこまで書きます。

1. 「グロインペイン」は病名ではなく、場所の名前

まず言葉の整理から始めます。

鼠径部(そけいぶ)とは、太ももの付け根の前から内側、下腹部にかけての部分です。英語で groin(グロイン)と呼びます。サッカー選手がこの部分に痛みを抱えることは昔から多く、日本では「グロインペイン症候群」「鼠径部痛症候群」とひとまとめに呼ばれてきました。

ところが、この「ひとまとめ」が混乱のもとでした。同じ「グロインペイン」でも、ある医師は内転筋の腱の痛みを指し、別の医師は恥骨の炎症を指し、また別の医師は「スポーツヘルニア」と呼ぶ——という状態が世界中で続いていたのです。

これを整理したのが、2014年にカタールのドーハで開かれた国際会議の合意(ドーハ合意、2015年発表)です。世界のスポーツ医学の専門家が集まり、アスリートの鼠径部痛を診察で分かる「痛みの出どころ」で分類しました。

分類 痛みの出どころ 痛みが出やすい動き・診察のサイン
内転筋関連 太もも内側の筋肉(内転筋)と、その恥骨への付け根 脚を閉じる力を入れると痛い。付け根を押すと痛い。インサイドキック、切り返し
腸腰筋関連 股関節の前を通る、脚を持ち上げる筋肉 太ももを持ち上げる力を入れると痛い。股関節を後ろに伸ばすと痛い。ダッシュの振り出し
鼠径管関連 下腹部の壁(鼠径管)のあたり 腹筋運動、起き上がり、咳やくしゃみでお腹に力が入ると痛い
恥骨関連 左右の恥骨をつなぐ関節(恥骨結合)と周りの骨 恥骨そのものを押すと痛い
股関節関連 股関節の中(関節唇・軟骨・骨の形) 股関節を深く曲げて内にひねると痛い。しゃがむ、靴下をはく。引っかかり感
その他 上記以外の病気(骨折、ヘルニア、腫瘍、内臓の病気など) 第5節で詳しく書きます

大事なのは、「グロインペインです」で診断が終わらないということです。「グロインペインのうち、内転筋関連」「内転筋と恥骨の両方」というところまで絞り込んで、はじめて治療の方針が決まります。

2. いちばん多いのは内転筋、そして「重なっている」

では、どれが多いのでしょうか。

ドーハ合意を作った病院で、鼠径部痛を訴える選手100人(98%が男性、60%がサッカー選手)をこの分類で診察した研究(Taylorら、2018年)があります。

  • 内転筋関連が61%で最多
  • 恥骨関連は4%で最も少なかった
  • そして、44%の選手で、複数の原因が同時に見つかった

サッカーに限ったデータでも、鼠径部のケガのおよそ3分の2は内転筋関連とされています。男子サッカーでは、練習や試合を休むことになったケガ全体の4〜19%を鼠径部が占めます。

ここで見落とされがちな事実があります。鼠径部の不調のうち、練習を休むほどになるのは約3分の1にすぎないという報告です。残りの3分の2の選手は、痛みを抱えたまま、少しパフォーマンスを落としてプレーを続けている。グロインペインが「氷山」と呼ばれるのはこのためです。チームで数えているケガの数は、氷山の一角にすぎません。

「重なっている」ことも重要です。たとえば内転筋の付け根が痛い選手が、同時に股関節の動きも硬くなっていることはよくあります。内転筋だけを治療しても、股関節の問題が残っていれば痛みはぶり返します。 グロインペインが治りにくい理由の1つはここにあります。

3. なぜサッカー選手に多いのか

あらゆる競技の中で、グロインペインが際立って多いのがサッカーです。理由はサッカー特有の動きにあります。

片脚で体を支えながら、もう片方の脚で強く蹴る。 これを何百回も繰り返す競技は、ほかにあまりありません。さらに、急な方向転換、ダッシュ、ストップが加わります。

このとき、骨盤には左右から別々の力がかかります。軸足側では体重を支え、蹴り足側では脚を振り抜く。その真ん中にあるのが恥骨です。恥骨の前面には、お腹の筋肉(腹直筋)と太もも内側の筋肉(長内転筋)が上下から付着していて、綱引きの中心のような場所になっています。

内転筋の筋力不足が、いちばんはっきりした危険因子

研究で比較的はっきりしている危険因子は、内転筋(脚を閉じる筋肉)の筋力が弱いことです。鼠径部痛のある選手では、筋肉が伸ばされながら力を出す筋力(遠心性筋力)が20%以上落ちていることが報告されています。キックの振り抜きや切り返しで、内転筋はまさにこの「伸ばされながら踏ん張る」働きをしています。

そして、この危険因子は鍛えれば変えられます。 これが第8節の予防の話につながります。

「足だけで蹴る」フォーム

日本のスポーツ医学では、体幹と骨盤がうまく連動せず、脚の力だけで蹴るフォームがグロインペインの背景にあるという考え方が広く共有されています。本来のキックは、反対側の腕を引き、胸からお腹をひねり、その力が骨盤を通って脚に伝わる全身の動きです。この連動が途切れると、脚の付け根の筋肉だけで蹴ることになり、内転筋や腸腰筋の付け根に負担が集中する、という考え方です。

これは臨床の経験から組み立てられた考え方で、内転筋の筋力のように臨床試験で確かめられたものではありません。ただ、リハビリの現場では「痛みが取れたあとに、フォームを作り直してから復帰する」という流れの土台になっています。

別の場所のケガが引き金になる

もう1つ、現場でよく見るのが、足首の捻挫や太ももの打撲をかばってプレーを続けたあとに、鼠径部が痛み出すという経過です。軸足の踏ん張り方が変わると、そのしわ寄せが骨盤まわりに来ます。足首の捻挫を「たかが捻挫」で済ませないほうがよい理由の1つです。

4. 中高生では「骨が先に壊れる」

ここからが、成長期の選手にとって最も大切な部分です。

中学生・高校生の骨盤や太ももの骨には、骨が伸びるための軟骨(成長軟骨、骨端線)がまだ残っています。この軟骨は、筋肉や腱よりも弱いのが特徴です。

大人なら「肉離れ」や「腱の炎症」で済むような強い力がかかったとき、中高生では筋肉ではなく、筋肉がくっついている骨の側がはがれることがあります。オスグッド病と同じ理屈です。

この年代で、股の付け根の痛みとして紛れ込む代表的な病気が3つあります。

① 骨盤の剥離骨折(裂離骨折)

全力のシュートやダッシュの一瞬で、筋肉が骨盤の付け根を骨ごと引きはがすケガです。

成長期の競技選手203人の骨盤剥離骨折を調べたイタリアの研究(Rossiら、2001年)では、競技別でサッカーが最も多く(74人)、体操がそれに続きました。はがれる場所は、

  • お尻の下の骨(坐骨結節):ハムストリングが付着。ダッシュで起きやすい
  • 骨盤の前の出っ張りのすぐ下(下前腸骨棘):太ももの前の筋肉(大腿直筋)が付着。キックで起きやすい
  • 骨盤の前の出っ張り(上前腸骨棘):ダッシュで起きやすい

典型的には、「バチッ」という感覚とともに急に痛くなり、その場で走れなくなります。 ただ、はがれ方が小さいと「痛いけど歩ける」ため、グロインペインや肉離れと思われて練習を続けてしまうことがあります。一瞬で痛くなったのか、じわじわ痛くなったのかは、診察のときに必ず伝えてください。

多くは手術をせずに治りますが、骨片のずれが大きい場合は手術を考えることもあります。

② 大腿骨頭すべり症——「膝が痛い」で始まる股関節の病気

救急医として、この記事で一番知っておいてほしい病気です。

太ももの骨の一番上(大腿骨頭)は、成長軟骨の部分で骨の本体とつながっています。思春期に、この部分がずれて骨頭が後ろ下へすべってしまうのが大腿骨頭すべり症です。10代前半の男子、とくに身長が急に伸びている時期や体重が重めの選手に多い病気です。

この病気の落とし穴は、股関節の病気なのに、膝や太ももの痛みとして現れることがある点です。股関節と膝の内側は同じ神経の枝につながっているため、脳が痛みの場所を取り違えるのです(関連痛)。

  • すべり症の子どもの12〜15%は、太ももの下や膝の痛みだけを訴えて受診したという報告があります
  • 米国の196人の調査(Kocherら、2004年)では、膝や太ももの下の痛みで来た子どもは、股関節の痛みで来た子どもより、診断までにかかった期間がはっきり長くなっていました。診断が遅れるほど、すべりも大きくなっていました

膝が痛いと言うので膝のレントゲンを撮る。当然、膝には異常がない。「成長痛でしょう」で帰る——この流れが、すべり症の見逃しの典型です。

次のサインがあれば、膝が痛いと言っていても、股関節のレントゲンを撮ってもらってください。

  • 足を引きずって歩く、つま先が外を向いたガニ股で歩く
  • あぐらがかけない、股関節を内側にひねる動きが固い
  • 仰向けで膝を胸に近づけると、膝が勝手に外へ逃げていく(ドレーマン徴候)

すべり症と分かったら、原則は手術で骨頭をネジで固定します。様子を見ている間にずれが進むと、骨頭への血の流れが途絶えて骨が死んでしまう(骨頭壊死)ことがあり、将来の股関節に大きな影響を残します。また、片側に起きた選手の約2割は、あとから反対側にも起こると報告されています。

「膝が痛い」と言って足を引きずっている10代前半の選手は、股関節を疑う。 これは救急外来でも繰り返し教えられる原則です。

大腿骨頭すべり症の見逃しを防ぐための図解。正常な股関節と、成長軟骨の部分で大腿骨頭がずれた股関節の模式図。股関節と膝の内側は同じ神経につながっているため膝に痛みを感じることがあり、すべり症の12〜15%は膝や太ももの痛みだけで受診する。膝のレントゲン、異常なし、成長痛でしょう、という見逃しの流れに×印。10代前半の男子、身長が急に伸びている時期や体重が重めの選手に多く、片側に起きた選手の約2割はあとから反対側にも起こる。疑うサインは、足を引きずるガニ股歩行、あぐらがかけない、仰向けで膝を胸に近づけると膝が外へ逃げる(ドレーマン徴候)の3つ。
「膝のレントゲンで異常なし→成長痛」が見逃しの典型。足を引きずっていたら股関節を調べる

③ 骨の形が変わる——大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)

股関節を深く曲げてひねったときに、太ももの骨と骨盤の受け皿がぶつかり合い、関節のクッション(関節唇)や軟骨を傷める状態です。

注目されているのは、太ももの骨の首の部分が出っ張る「カム型」と呼ばれる形です。サッカーのアカデミー選手などを追いかけた研究から、この出っ張りは成長軟骨が閉じる前の思春期に、激しい運動を続けることで形づくられると考えられるようになりました。

しゃがむ、靴下をはく、車の乗り降りなどで股関節の前が詰まるように痛む、引っかかる感じがある、という場合はこれを疑います。レントゲンで骨の形を、MRIで関節唇の傷みを確認します。

5. 見逃してはいけないサイン

第4節の病気に加えて、股の付け根の痛みにはサッカーとは関係のない、重い病気が隠れていることがあります。救急外来で私たちが最初に確かめるのは、こちらです。

こんなとき 考えられる病気 どうするか
男子で、急に強い痛み+睾丸(陰嚢)も痛い・腫れている・吐き気 精巣捻転 すぐに救急外来か泌尿器科へ。 数時間で睾丸を失うおそれがある
足の付け根に膨らみがあり、立つと出て寝ると引っ込む 鼠径ヘルニア 外科を受診
一瞬で痛くなり、その場で走れない・体重をかけられない 骨盤の剥離骨折 当日〜翌日に整形外科
膝や太ももの痛み+足を引きずる(とくに10代前半) 大腿骨頭すべり症 股関節のレントゲンを撮れる整形外科へ早めに
夜、寝ているときも痛む、安静にしても痛みが引かない 骨の腫瘍、感染など 整形外科で詳しく調べる
熱がある、股関節を動かせないほど痛い 化膿性股関節炎など、骨や関節の感染 当日中に受診
走り込みが続いたあと、体重をかけるたびに付け根の奥が痛む 大腿骨頸部や恥骨の疲労骨折 走るのをやめて整形外科へ

精巣捻転は整形外科のケガではありませんが、思春期の男子が「股の付け根が痛い」「お腹が痛い」と訴えることがあり、恥ずかしさから睾丸の痛みを言わないことも少なくありません。急に強く痛み出した場合は、保護者の方から「睾丸は痛くないか」と確認してください。 これは時間との勝負です。

股の付け根の痛みで見逃してはいけないサインの一覧表。急ぐ順に、男子で急な強い痛みと睾丸の痛み・腫れ・吐き気は精巣捻転を疑いすぐに救急外来か泌尿器科へ。熱があり股関節を動かせないほど痛いときは骨や関節の感染で当日中に受診。一瞬で痛くなり走れないときは骨盤の剥離骨折で当日〜翌日に整形外科。膝や太ももの痛みと足を引きずる10代前半は大腿骨頭すべり症。夜間の痛みは骨の腫瘍など、走り込み後の荷重時痛は疲労骨折、立つと出る膨らみは鼠径ヘルニアで外科を受診。
上の行ほど急ぐ。いちばん上の精巣捻転は、整形外科ではなく救急か泌尿器科へ

6. なぜ長引くのか——「休む→戻る→また痛む」の正体

グロインペインの選手からよく聞くのが、次のような経過です。

2週間休んだら痛みが消えた。次の日から普通に練習に戻った。1週間でまた痛くなった。

これには理由があります。休むと炎症は落ち着くので、痛みは引きます。 しかし、痛みを生んだ原因——内転筋の筋力不足、股関節の硬さ、骨盤を支える力の弱さ、足だけで蹴るフォーム——は、休んでいる間に何ひとつ改善していません。 むしろ休んだ分だけ筋力は落ちています。その状態で、休む前と同じ強さのシュート練習に戻れば、同じ場所が再び悲鳴を上げるのは当然です。

もう1つ、休み明けの急な負荷も問題になります。定期テスト明け、長期休み明け、ケガからの復帰直後は、体の準備ができていないところに急に強い練習が入るため、グロインペインが出やすいタイミングです。指導者の方には、休み明けの1〜2週間は強度を段階的に上げることをおすすめします。

逆に、痛みを隠して練習を続けるのも長引く原因です。痛みをかばってフォームが崩れ、崩れたフォームが別の場所に負担をかけ、痛みがさらに広がる。この悪循環に入ると、数週間で済んだはずのものが数か月単位になります。

7. 治療の主役は「運動療法」

では、どう治すのか。この問いに強い根拠を与えた臨床試験があります。

デンマークのHölmichらが1999年に医学誌『ランセット』に発表した研究です。長引いた内転筋関連の鼠径部痛を抱えた選手68人(痛みが続いていた期間は中央値で40週)を、2つの治療にくじ引きで分けました。

  • 運動療法の群:内転筋と骨盤まわりの筋力、体の連動を鍛えるトレーニングを8〜12週
  • 受け身の治療の群:マッサージ、電気治療、ストレッチなど、トレーニングを含まない理学療法

治療終了から4か月後に、痛みなく元のレベルの競技に復帰できたのは、運動療法の群で23人、受け身の治療の群で4人でした。

長く続いた痛みでも、休んで待つより、正しく鍛えたほうが治る。 これがグロインペイン治療の基本的な考え方になっています。

復帰までの流れ

実際のリハビリは、選手ごとに痛みの出どころと程度を見ながら進めます。大まかな流れは次のとおりです。

  1. 痛みを落ち着かせる時期:キック、ダッシュ、切り返しなど、痛みを出す動きを止める。ただし完全に何もしないのではなく、痛くない範囲でエアロバイク、体幹トレーニング(プランク、お尻を持ち上げるブリッジなど)、上半身のトレーニングを続ける
  2. 鍛え直す時期:膝の間にボールを挟んで締める運動から始め、内転筋、お尻の筋肉、体幹を少しずつ強くする。軽いジョギングを再開する
  3. 競技の動きに戻す時期:短い距離の軽いインサイドパスから始め、距離と強さを少しずつ上げる。ランニングもジョギング→ステップ→ダッシュ→切り返しの順に。強いインステップキックは最後

期間は人によって大きく違います。早く対処できた軽い例なら数週間、長引いた例では数か月かかることもあります。大切なのは日数ではなく、各段階の動きを痛みなくこなせたかどうかです。

長引く鼠径部痛の悪循環と抜け出し方の図解。左は、休む、痛みが消える、同じ強さで戻る、また痛む、の悪循環の輪で、中心に「休むと炎症は引くが、原因(筋力不足・股関節の硬さ)は残ったまま」。右は抜け出し方の3段階で、痛みを落ち着かせる(エアロバイク・体幹・上半身は続ける)、鍛え直す(膝の間にボールを挟んで締める運動から)、競技の動きに戻す(軽いインサイドパスから、強いインステップキックは最後)。下に、長引いた内転筋の痛みの選手68人の臨床試験で、痛みなく元のレベルに復帰したのは運動療法の群23人、受け身の治療の群4人という棒グラフ。
「休む→戻る→また痛む」から抜け出す鍵は、休んでいる間に鍛え直すこと

自分でできるチェック

練習前後に、次の動きで痛みが出ないか確かめる習慣をつけておくと、早めに気づけます。

  • 膝の間にボールを挟んで締める:仰向けで両膝を立て、膝の間にボールや丸めたタオルを挟んで全力で締める。股の付け根や恥骨のあたりが痛む、痛くて力が入らない場合は、内転筋や恥骨まわりの問題を疑う
  • ボールなしでキックの素振り:素振りだけで付け根が痛むなら、練習は止めたほうがよい段階
  • 朝の起き上がり:ベッドから起き上がるときに下腹部や付け根が痛む

どれかで痛みが出るなら、我慢して続けるより、早めに受診して痛みの出どころを特定してもらうほうが、結果的に早く戻れます。

8. 予防:コペンハーゲン・アダクション

最後に予防です。

第3節で書いたとおり、内転筋の筋力不足は変えられる危険因子です。これを狙った運動がコペンハーゲン・アダクションです。

やり方(3段階)

  • レベル1(いちばんやさしい):横向きに寝て、下側の脚を床から持ち上げる
  • レベル2:横向きで肘をついた姿勢(サイドプランク)をとり、パートナーに上側の脚の膝のあたりを支えてもらう。下側の脚を持ち上げて上の脚にそろえながら、体を一直線に持ち上げ、ゆっくり下ろす
  • レベル3(いちばん難しい):レベル2と同じ動きを、上側の脚の足首のあたりを支えてもらって行う(てこが長くなるため負荷が大きい)

左右両方行います。運動中の股の付け根の痛みが10段階で3を超えたら、1つやさしいレベルに下げます。

効果

ノルウェーのセミプロ35チーム(652人)をくじ引きで2つに分けた研究(Harøyら、2019年)では、この1種目をウォームアップに入れたチームで、

  • シーズン中、1週間あたりに鼠径部の不調を抱えていた選手の割合(平均)が13.5%(対照のチームは21.3%)
  • 鼠径部の不調を報告するリスクが41%低かった

という結果でした。シーズン中は週1回、5分もかからない運動です。研究の期間中、この運動による有害な出来事の報告はありませんでした。

研究で使われた進め方は次のとおりです(左右とも各1セット)。

時期 週の回数 1セットの回数
1週目 2回 3〜5回
2週目 3回 3〜5回
3〜4週目 3回 7〜10回
5〜6週目 3回 12〜15回
7〜8週目 2回 12〜15回
9週目以降(シーズン中) 1回 12〜15回

いきなり多くやらず、週ごとに少しずつ増やすのがポイントです。始めたばかりの時期や回数を増やした直後は、内ももに筋肉痛が出やすくなります。

正直に書いておくべき限界

ただし、この研究には大事な限界があります。対象は大人の男子選手でした。著者たち自身が論文の中で、「女子選手や育成年代の選手に同じ効果があるかは分かっていない」と書いています。

ですから、中高生のチームに取り入れるなら、

  • レベル1から始める。 体がまだ成長途中の選手に、いきなりレベル3は不要です
  • 痛みが3/10を超えない範囲で。 すでに付け根に痛みがある選手は、予防として自己流で始める前に受診する
  • 続ける。 この研究では、選手が予定の約7割を実行していました。予防運動は、やめた時点で効果もそこで終わります

という条件を守ってください。ACL損傷の記事で紹介したFIFA 11+と同じで、効果は「続けたチーム」にしか出ません。

まとめ

  • 「グロインペイン」は病名ではなく場所の名前。 ドーハ合意で、内転筋・腸腰筋・鼠径管・恥骨・股関節などに分けて考えるようになった
  • 最多は内転筋(61%)。 ただし44%は複数の原因が重なっていて、1か所だけ治しても再発する
  • 鼠径部の不調の約3分の2は練習を休まずに続けられている。チームで数えているケガは氷山の一角
  • はっきりした危険因子は内転筋の筋力不足。 鍛えれば変えられる
  • 中高生では骨が先に壊れる。 一瞬で痛くなったら骨盤の剥離骨折を疑う
  • 「膝が痛い」+足を引きずる10代前半の選手は、大腿骨頭すべり症を疑って股関節のレントゲンを。 すべり症の12〜15%は膝や太ももの痛みだけで始まる
  • 男子の急な付け根の痛み+睾丸の痛みは、精巣捻転を疑って救急へ。
  • 「休んで痛みが消えた」は「治った」ではない。 運動療法の群は23人、受け身の治療の群は4人が痛みなく復帰した
  • レントゲンで異常なし≠練習してよい。 長引くならエコーやMRIのあるスポーツ整形へ
  • 予防はコペンハーゲン・アダクション。 大人の選手で不調が41%減った。育成年代ではレベル1から、続けることが条件

股の付け根の痛みは、選手が言い出しにくい場所の痛みでもあります。痛む場所を説明するのが恥ずかしい、アップすれば走れる、レギュラーから外されたくない。そうして黙っている間に、数週間で済んだものが半年になります。

「どこが、いつから、どの動きで痛いか」を言葉にして伝えること。 それが、この長引きやすいケガから早く抜け出すための最初の一歩です。

※本記事の図解3点は、当サイトが収集・整理した医学資料をもとに Google Gemini で作成したものです。

「成長期のケガ」シリーズの他の記事もあわせてどうぞ。腰は腰椎分離症、太もも裏はハムストリング肉離れ、膝の前はオスグッド病、すねと足はシンスプリントと疲労骨折、膝の中は前十字靭帯(ACL)損傷で扱っています。練習量と休養のバランスについてはオーバートレーニング症候群、痛み止めを飲んで試合に出ることの問題は試合前の痛み止め(NSAIDs)に書いています。

※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。股の付け根の痛みが続く場合は整形外科(できればスポーツ整形)を受診してください。急な強い痛みに睾丸の痛みや腫れを伴う場合は、すぐに救急外来か泌尿器科を受診してください。内容は執筆時点で参照可能な原著論文・国際的な合意声明・システマティックレビューに基づいています。

よくある質問

Q. 2週間休んだら痛みが消えました。もう治ったと考えてよいですか?

A. 痛みが消えたことと、治ったことは別です。休むと炎症は落ち着くので痛みは引きますが、痛みを生んだ原因である股関節まわりの筋力不足や、骨盤を支える力の弱さ、足だけで蹴るフォームはそのまま残っています。その状態で休む前と同じ強さのシュート練習に戻ると、同じ場所がまた痛み出すのがグロインペインの典型的な経過です。長引いた鼠径部痛の選手68人を2つの治療に分けたデンマークの臨床試験(Hölmichら、1999年)では、内転筋と骨盤まわりを鍛える運動療法を8〜12週行った群では23人が痛みなく元のレベルに復帰したのに対し、マッサージや電気治療などの受け身の治療の群では4人でした。復帰の目安は「痛みが消えた日」ではなく、膝の間にボールを挟んで強く締めても痛まない、片脚のスクワットやジョギングで痛まない、軽いパスから順に強度を上げても痛まない、という段階を踏めたかどうかです。

Q. 整形外科でレントゲンを撮って「骨は大丈夫」と言われました。練習を続けても大丈夫ですか?

A. 「骨折はない」という意味であって、「練習してよい」という意味ではありません。グロインペインの多くは、内転筋の付け根の腱の傷み、恥骨の中のむくみ(骨髄浮腫)、股関節のクッションである関節唇の傷みなど、レントゲンには写らない場所で起きています。これらを見るにはエコー(超音波)やMRIが必要です。レントゲンが役に立たないわけではなく、成長期の骨盤の剥離骨折や大腿骨頭すべり症を見つけるにはまずレントゲンが大切です。ただ、レントゲンで異常がなくても痛みが2〜3週間以上続く場合や、練習に戻るたびにぶり返す場合は、エコーやMRIがあり、リハビリまで診てくれるスポーツ整形外科に相談してください。

Q. 何科を受診すればよいですか?

A. 基本は整形外科で、できればスポーツ整形外科を選んでください。診察で押して痛い場所や力を入れて痛む動きを確かめ、必要に応じてエコーやMRIで原因を絞り込み、理学療法士によるリハビリにつなげてもらえるところが理想です。ただし例外があります。男子で急に股の付け根や下腹部が強く痛み、睾丸(陰嚢)も痛む、腫れている、吐き気がある場合は、精巣捻転の可能性があります。精巣捻転は発症から数時間で睾丸を失うおそれがある緊急事態なので、整形外科ではなく救急外来か泌尿器科へすぐに向かってください。また、足の付け根に膨らみがあり、立つと出て寝ると引っ込む場合は鼠径ヘルニアの可能性があり、外科の受診が必要です。

Q. 予防にコペンハーゲン・アダクションがよいと聞きました。中高生がやっても大丈夫ですか?

A. やり方を守れば、中高生が取り入れても問題の少ない運動です。ノルウェーのセミプロ選手652人を対象にした研究(Harøyら、2019年)では、この1種目をシーズン前は週3回、シーズン中は週1回続けたチームで、鼠径部の不調の報告が41%少なくなりました。参加者からは有害な出来事の報告もありませんでした。ただし、この研究の対象は大人の男子選手で、著者自身も「女子や育成年代に同じ効果があるかは分かっていない」と書いています。中高生で取り入れるなら、いきなり難しい形から始めず、横向きに寝て下の脚を持ち上げる一番やさしい形から入り、回数を週ごとに少しずつ増やすことが大切です。運動中に股の付け根の痛みが10段階で3を超える場合は、1つやさしい段階に戻してください。すでに強い痛みがある選手は、予防目的で自己流に始めるのではなく、まず受診してください。

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