サッカーで足がつる|「水分・塩分不足」ではない本当の原因と対処法を救急医が解説

後半に足がつるのは「水分・塩分が足りないから」——この説明は、いまのスポーツ医学では主流ではありません。トライアスロン選手210名の前向き研究で痙攣を予測したのは脱水でも血中ナトリウムでもなく、いつもより速いペースと過去の痙攣歴でした。その場で止める方法、ピクルス液・マグネシウム・芍薬甘草湯の評価、そして「つっただけ」で済まない危険なサインまで、救急科専門医が解説します。

サッカーで足がつる|「水分・塩分不足」ではない本当の原因と対処法を救急医が解説

【この記事の要約】 後半に足がつるのは「水分と塩分が足りないから」——長く信じられてきたこの説明は、いまのスポーツ医学では主流ではありません。アイアンマン・トライアスロン選手210名を追跡した前向き研究で痙攣を予測したのは、脱水でも血清ナトリウムの変化でもなく、いつもより速いペースで走っていたこと過去の痙攣歴の2つでした。有力な説明は「疲れた筋肉が、自分を止める信号を出せなくなる」という神経の問題です。だからその場で最も確実なのは、揉むことでも飲むことでもなく、伸ばすこと。一方で「電解質は無関係」と言い切るのも行き過ぎで、汗に塩分を多く失うタイプの選手では補給が効きます。この記事では、その場の止め方、ピクルス液・マグネシウム・芍薬甘草湯の評価、そして「つっただけ」で済まない危険なサインまでを整理します。

選手権予選が始まり、連戦に入る時期です。まだ残暑は続いていて、新チームの走り込みの疲れも抜けきっていない。この時期、ベンチから見ていると必ず何人か出ます。後半30分すぎ、誰にも当たっていないのに突然その場に倒れ込んで、ふくらはぎを押さえて動けなくなる選手が。

救急外来に「足がつって」で運ばれてくる高校生はほとんどいません。多くはその場で治まるからです。だからこそ、この症状は「よくあること」として片づけられ、対処法だけが世代を超えて受け継がれてきました。「水をもっと飲め」「塩を舐めろ」「マグネシウムが足りない」——おそらく、あなたも一度は言われたことがあるはずです。

ところが、この説明は近年の研究に支持されていません。今回は、足がつるという誰もが経験する現象の中身を、いまわかっているところまで整理します。結論を先に言えば、足がつるのは水の問題ではなく、神経の問題です。そしてそれが分かると、その場でやるべきことも、やっても意味のないことも、はっきりします。

1. 後半30分、同じ選手が同じ場所でつる

まず、現場で起きていることを言葉にしておきます。

運動に関連して起きる筋肉の痙攣を、スポーツ医学では運動関連筋痙攣(Exercise-Associated Muscle Cramps:EAMC)と呼びます。筋肉が突然、自分の意思と関係なく強く縮み続け、激しい痛みを伴う状態です。サッカーではふくらはぎ(腓腹筋)太もも裏(ハムストリング)足の裏や指に多く起きます。

特徴的なのは、起こるタイミングと場所です。

  • 試合の後半、あるいは延長戦に集中する
  • 連戦の2試合目・3試合目で増える
  • 同じ選手が、同じ場所を、繰り返しつる
  • 誰にも接触していない

そして疫学的には、筋肉の痙攣そのものはありふれた現象です。健康な成人の50〜60%が経験し、8〜18歳の子ども・青年でも約7%が経験するとされています。つまり高校生年代では、大人ほど頻繁ではないにせよ、決して珍しいことではありません。

ここで大事な視点を1つ置いておきます。同じ選手が繰り返しつるという事実は、「その選手の根性が足りない」でも「その日の水分が足りなかった」でもなく、つりやすさには個人差があり、それは体質と、その日までの過ごし方の両方で決まるということを示しています。この記事の後半で、その中身を扱います。

2. 足がつるとき、筋肉の中で何が起きているのか

痙攣している筋肉に電極を当てて記録すると(筋電図といいます)、何が起きているかがよく分かります。

まず、筋肉の一部がピクピクと細かく震える動き(線維束性収縮)から始まります。次に、その興奮が隣の領域へ広がっていきます。そして最終的に、運動単位が最大150Hzという非常に高い頻度で発火し続ける状態になります。

150Hzというのは、1秒間に150回、筋肉に「縮め」という命令が届いている状態です。普通の随意的な収縮ではここまでの頻度は出ません。筋肉は弛緩するひまを与えられず、縮みっぱなしになります。これが強縮(テタヌス)と呼ばれる状態で、外から触ると硬く盛り上がり、あの独特の激痛が生じます。

ここで注目してほしいのは、「縮め」という命令が過剰に出ているという点です。筋肉が勝手に壊れているのでも、エネルギーが切れて固まっているのでもありません。神経が、筋肉に命令を出しすぎている。 これが痙攣の正体です。

そして、命令を出しているのは脳ではありません。脊髄です。だから自分の意思で止められません。「力を抜こう」と思っても抜けないのは、意思が届く経路の外側で起きているからです。

3. 「水分と塩分が足りないから」——この説が揺らいだ理由

では、なぜ神経が命令を出しすぎるのか。

20世紀を通じて信じられてきた説明は、脱水・電解質喪失説でした。大量に汗をかくとナトリウムやマグネシウムが失われ、それが神経や筋肉の働きを乱して痙攣を起こす——という筋書きです。直感的で分かりやすく、そして「だからスポーツドリンクを飲もう」という明快な対策につながるため、広く定着しました。

この説を検証するために行われたのが、実際に痙攣を起こした選手と起こさなかった選手を比べるという研究です。ここで結果が食い違い始めました。

決定的だったのは、Schwellnusらによる前向きコホート研究です。アイアンマン・トライアスロンの選手210名を対象に、レース前後の体重変化(脱水の指標)と血液検査を測定し、痙攣を起こした群と起こさなかった群を比較しました。

結果は、こうでした。

  • 脱水の程度に差はなかった
  • 血清ナトリウム濃度の変化にも差はなかった
  • 痙攣を予測したのは、いつもより速いペースで走っていたことと、過去に痙攣を起こした経験があること

同じ研究グループは56kmのウルトラマラソンでも同様の検討を行い、そこでもリスク因子として浮かび上がったのは走速度の上昇レース前からすでにあった筋の損傷でした。脱水ではありませんでした。

さらに、後述するピクルス液の実験が、この説にとどめを刺しました。痙攣を止める効果があるとされてきたピクルス液を飲ませると、確かに痙攣は止まります。しかし、止まるまでの時間が平均約85秒でした。飲んだ液体が胃を通り、腸で吸収されて血液中のナトリウム濃度を動かすには、どんなに速くても数十分かかります。85秒では、血中の電解質はまだ1ミリも動いていません。 つまり、効いているとしても、それは電解質を補正したからではないということです。

これらの結果から、現在の教科書的な整理はこうなっています。脱水・電解質喪失説を支持する科学的根拠は、症例報告や小規模な症例対照研究が中心であり、複数の前向きコホート研究はこれを支持しなかった。

4. いま有力な説明:疲れた筋肉が、自分を止められなくなる

代わって主流になったのが、神経制御異常説(Altered Neuromuscular Control Theory)です。少し解剖の話をしますが、ここが分かると対処法が腑に落ちるので、お付き合いください。

筋肉には、自分の状態を脊髄に報告する2種類のセンサーが付いています。

① 筋紡錘(きんぼうすい) — 筋肉の中に、筋線維と並んで埋まっているセンサーです。筋肉が伸ばされたことを検知して、「縮め」という興奮性の信号を脊髄に送ります。膝の下を叩くと脚が跳ね上がる、あの反射を起こしているのがこれです。人間の体には約3万個あるとされています。

② ゴルジ腱器官(けんきかん) — 筋肉と腱のつなぎ目にあるセンサーです。腱に強い張力がかかったことを検知して、「ゆるめろ」という抑制性の信号を脊髄に送ります。筋肉や腱が力を出しすぎてちぎれるのを防ぐ、安全装置です。

正常な状態では、このアクセル(筋紡錘)とブレーキ(ゴルジ腱器官)が釣り合っています。

ところが、筋肉が疲労すると、このバランスが崩れます。

  • 筋紡錘からの興奮性の入力が亢進する(アクセルが踏み込まれる)
  • ゴルジ腱器官からの抑制性の入力が低下する(ブレーキが利かなくなる)

とくに、筋肉が短く縮んだ状態で収縮を強いられたとき、ゴルジ腱器官は張力をうまく感知できず、ブレーキの信号がさらに減ります。この「アクセル過剰+ブレーキ低下」が重なった結果、脊髄の運動ニューロンが暴走し、あの150Hzの発火が始まる——というのが現在の説明です。

筋痙攣が起きる仕組みの図。筋紡錘(Ia群・興奮)とゴルジ腱器官(Ib群・抑制)の天秤が、筋疲労と筋の短縮によって傾く。ゴルジ腱器官の張力感知が低下して抑制シグナルが激減し(脱抑制)、筋紡錘からの興奮性入力が相対的に過活動となり、α運動ニューロンが最大150Hzで異常発火して持続的な強縮(テタヌス)に至る
アクセル(筋紡錘)が踏み込まれ、ブレーキ(ゴルジ腱器官)が利かなくなる。これが痙攣の正体

この理屈は、現場の観察とよく合います。

  • 後半に起きる:疲労が蓄積した時点でバランスが崩れるから
  • いつもより速いペースで起きる:想定を超える負荷が、より早く疲労を招くから
  • つま先を伸ばした姿勢で起きやすい:ふくらはぎが短縮した状態=ゴルジ腱器官が働きにくい状態だから
  • 伸ばすと治まる:腱を引き伸ばすことで、ブレーキの信号を人の手で作り直せるから

ちなみに、夜中に足がつるのも同じ理屈で説明できます。仰向けで寝ていると足首は自然に伸びた位置(底屈位)になり、ふくらはぎは最も短くなります。この状態でわずかな刺激が加わると、ブレーキが利かないまま痙攣に至る、というわけです。

5. ただし「電解質は無関係」でもない——2019年以降の整理

ここで、正直に書いておかなければならないことがあります。

前の2つの節を読むと、「脱水説は完全に否定された。水分も塩分も関係ない」と受け取れるかもしれません。それは行き過ぎです。

2019年に Sports Medicine 誌に掲載されたレビュー(Maughan と Shirreffs による)は、この論争を次のように整理しました。単一の機序ですべての筋痙攣を説明することはできない。ペース配分、神経筋疲労、電解質の状態、そのいずれもが寄与しうる。

具体的には、こういうことです。汗に含まれる塩分の濃度には大きな個人差があります。同じ量の汗をかいても、失うナトリウムの量は人によって何倍も違います。そして、大量に汗をかき、その汗の塩分濃度も高いタイプの選手——いわゆる「塩を吹く」タイプ——では、ナトリウムの補給が痙攣を減らすことがある、という報告が積み上がっています。アメリカンフットボールのプレシーズンのように、暑熱下で長時間の練習を繰り返す環境で、この傾向は特に指摘されてきました。

つまり、現在の理解を1行でまとめるなら、

「水分と塩分は無関係」ではなく、「水分と塩分だけでは説明も予防もできない」。

となります。神経筋疲労が主役であることは動きませんが、脇役として電解質が効いてくる選手が一定数いる、という理解です。

現場での実務的な意味はこうです。練習後にユニフォームが白く塩を吹く選手、汗の量が明らかに多い選手は、水だけでなく塩分も意識して補給する価値があります。一方で、それ以外の大多数の選手にとって、「もっと飲め、もっと塩を摂れ」は痙攣対策としては的外れです。負荷とコンディションの問題として扱うべきです。

なお、水分補給そのものの重要性は少しも下がりません。熱中症の予防としては、水分補給は決定的に重要です。ただし、それは痙攣を防ぐためではありません。この2つは別の話として整理してください。水分補給の具体的な方法は真夏の水分補給戦略の記事で詳しく扱っています。とくに、水だけを大量に飲むと逆に運動誘発性低ナトリウム血症で倒れることがあるので、「痙攣が怖いから水をがぶ飲みする」というのは、対策としても間違っていますし、危険でもあります。

6. その場で止める:伸ばす。揉むより確実な理由

現場での対処に移ります。つった筋肉を、ゆっくり伸ばしてください。 これが最も確実です。

具体的には、部位ごとにこうなります。

  • ふくらはぎ(腓腹筋)膝を伸ばしたまま、足の指とつま先を自分のすねのほうへ引き寄せる。膝を曲げると腓腹筋がゆるんでしまい、伸びません
  • 太もも裏(ハムストリング):仰向けで、膝を伸ばしたまま脚全体を持ち上げる
  • 太もも前(大腿四頭筋):うつ伏せか横向きで、膝を曲げてかかとをお尻に近づける
  • 足の裏・足の指:足の指をすねのほうへ反らせる

いずれも、反動をつけず、痛みが少し和らぐ位置で20〜30秒保ちます。他人が介助する場合も同じで、勢いよく押し込まないでください。

なぜ揉むより伸ばすほうがいいのか。 ここまで読んでいただいた方には、もう答えが見えているはずです。痙攣は「筋肉を止める信号(ゴルジ腱器官からの抑制)が弱まった状態」でした。腱を引き伸ばすという行為は、そのブレーキの信号を人の手で無理やり作り直す作業にあたります。原因に直接効いているわけです。

一方、揉む・叩く・温めるといった行為は、感覚を紛らわせる効果はあっても、この抑制信号を作る作用は持ちません。まったく無意味ではありませんが、優先順位は明確に下です。迷ったら伸ばす。 これだけ覚えて帰ってください。

なお、治まった直後にすぐ全力に戻すと、高い確率で再発します。歩ける状態まで戻し、ジョグから段階的に上げてください。試合終盤で交代枠がない状況では難しい判断になりますが、痙攣を繰り返しながら走っている選手は、その後の肉離れのリスクも上がっていると考えたほうが安全です。疲労した筋肉が制御を失っている状態そのものが、肉離れの発生機序と地続きだからです(ハムストリング肉離れの記事で詳しく扱っています)。

7. 巷の対策を検証する:ピクルス液・マグネシウム・その他

痙攣には民間療法が非常に多く、そのほとんどが「電解質を補う」という古い理屈に基づいています。主なものを、エビデンスの強さ順に整理します。

ピクルス液・強い刺激のあるもの(機序としては理にかなっている)

アメリカのアスリートのあいだで長く使われてきたのがピクルスの漬け汁です。日本ではなじみが薄いですが、マスタード梅干し、強い酸味・辛味のあるものでも同じ理屈が働くと考えられています。

先に触れたとおり、Millerらの実験では、電気刺激で人工的に起こした痙攣にピクルス液を飲ませると、平均約85秒で治まりました。血中の電解質が動くには速すぎる。ではなぜ効くのか。

現在の説明はこうです。ピクルス液に含まれる酢酸などの強い刺激成分が、口・のど・食道の上部にあるTRPチャネル(TRPV1・TRPA1)という受容体を強く刺激します。この強烈な感覚情報が神経を通って脳幹・脊髄に届き、抑制系の働きを増強する反射を引き起こす。その結果、暴走していた運動ニューロンの興奮が一気に鎮まる——という筋書きです。飲み込んで吸収されるからではなく、口とのどが刺激されるから効く、という点が重要です。

臨床試験としては、肝硬変の患者82名を対象にしたPICCLES試験で、発作時に大さじ1杯のピクルス液を飲む群が水道水の群より痙攣の重症度を有意に軽減し、有害事象はゼロでした。ただし、この対象は肝硬変の患者であって高校生の選手ではありません。 選手を対象にした質の高い試験はまだ少なく、口をゆすぐだけでは効果がなかったとする報告もあります。

実務的な結論:機序は理にかなっており、害はほとんどありません。試す価値はありますが、「これで治る」と約束できるほどのデータはまだない、という位置づけです。伸ばすことの代わりにはなりません。

マグネシウム(推奨できない)

「マグネシウム不足でつる」は、おそらく最も広く信じられている説です。サプリメントも大量に売られています。

これを厳密に検証したのが、コクラン・システマティックレビュー(2012年、2020年改訂)です。11件のランダム化比較試験・735名を統合したメタ解析の結果は、明確でした。

  • 痙攣の頻度について、マグネシウム群とプラセボ群の差は−9.59%(95%信頼区間 −23.14〜3.97)で、統計的に有意ではない
  • 研究間のばらつきを示す指標も I²=0% と極めて低い。つまりどの研究でも一貫して効果が見られなかった
  • 痛みの強さ、持続時間についても、プラセボを上回る差はなかった

ここで注意点を1つ。このレビューの対象は主に高齢者の夜間のこむら返りであり、高校生の運動中の痙攣そのものを検証したものではありません。とはいえ、「マグネシウムが痙攣に効く」という主張の中核的な根拠が否定されている以上、血液検査で低マグネシウム血症が確認されていない限り、サプリメントを飲む理由は乏しいというのが現在の立場です。

塩タブレット・スポーツドリンク(人による)

第5節に書いたとおりです。ユニフォームが白く塩を吹くタイプの選手には意味があります。それ以外の選手にとっては、熱中症予防としての価値はあっても、痙攣対策としての価値は限定的です。

トニックウォーター(避けてください)

「トニックウォーターがこむら返りに効く」という話を聞くことがあります。これはトニックウォーターに微量含まれるキニーネという物質に由来する俗説です。

キニーネは確かに痙攣を減らす作用があり、かつては世界中で処方されていました。しかし、免疫が関与する重篤な血小板減少症、溶血性尿毒症症候群、致死的な不整脈(QT延長)、急性腎不全といった重大な副作用が多数報告され、米国FDAは「良性で自然に治る筋痙攣に対して使うには、リスクが利益を不当に上回る」として黒枠警告を出しました。現在、痙攣に対するキニーネの使用は国際的に厳しく制限され、治療の選択肢から外れています。飲料に含まれる量はごくわずかですが、「効くから飲む」という発想自体をやめてください。

こむら返りに対する過去の標準治療の評価をまとめた図。キニーネは致死的な不整脈や血小板減少症のリスクから米国FDAが黒枠警告を発出し、現在は治療アルゴリズムから完全に除外されている。マグネシウムはコクランレビュー2020年版で特発性の夜間下肢痙攣に対する効果がプラセボと同等と否定され、有意な頻度減少はなく異質性I2は0%、低マグネシウム血症がない限りルーチン処方は非推奨とされている
マグネシウムは11試験735名のメタ解析でプラセボと差がなかった。キニーネは副作用のため使用不可

ビタミンK2(高校生には当てはめられない)

2024年に JAMA Internal Medicine 誌に掲載されたランダム化比較試験で、ビタミンK2(メナキノン-7、180μg/日)が夜間のこむら返りの頻度を週2.60回から週0.96回へ劇的に減らし、有害事象もゼロだったと報告されました。有望な結果です。

ただし、対象は65歳以上の高齢者199名であり、運動中の痙攣を扱ったものではありません。 高校生の選手にそのまま当てはめることはできません。今後の研究を待つ段階です。

8. 芍薬甘草湯を「毎日」飲ませてはいけない

日本の現場で最もよく使われているのが、漢方薬の芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう/ツムラ68番など)です。ここは項を分けて書きます。高校生の部活で、最も起こりやすい医療上の事故がここにあると考えているからです。

まず、この薬はよく効きます。芍薬の主成分ペオニフロリンなどが筋細胞へのカルシウム流入を素早く遮断することで筋肉を直接ゆるめ、数分から15分程度という、西洋薬にはない速さで効果が出ます。透析患者の難治性のこむら返りに対して約9割で消失または軽減したという報告もあり、日本神経学会のガイドラインでも位置づけられています。効くことは間違いありません。

問題は、飲み方です。

甘草(かんぞう)に含まれるグリチルリチンは、腎臓の尿細管で働く酵素を阻害し、結果としてナトリウムを溜め込み、カリウムを尿に捨てさせる方向に体を傾けます。これが偽アルドステロン症と呼ばれる状態で、血圧の上昇、むくみ、そして低カリウム血症を引き起こします。

発症頻度は、甘草の1日量に依存して増えます。

甘草の1日量 偽アルドステロン症の頻度
1g 約1.0%
2g 約1.7%
4g 約3.3%
6g 約11.1%

医療用の芍薬甘草湯を1日3包飲むと、甘草は6gに相当します。つまり、添付文書どおりの最大量を飲み続けると、10人に1人の頻度で起こりうる計算になります。発症時期には一定の傾向がなく、開始10日以内の早期に出ることもあれば、数年後に出ることもあり、報告の約4割は3か月以内でした。

そして、ここが最も皮肉な点です。

低カリウム血症そのものが、神経と筋肉を興奮しやすくし、筋肉をつりやすくします。

つまり、つるのを防ぐつもりで飲み続けた結果、かえってつりやすい体を作ってしまうという逆転が起こりうるのです。

これは机上の空論ではありません。医療用の芍薬甘草湯の添付文書には、重大な副作用として偽アルドステロン症と、その結果として起こるミオパチー・横紋筋融解症が明記されています。脱力感、筋力低下、筋肉痛、手足のけいれんは、その初期症状として挙げられているものです。「つりやすくなった」という訴えの裏に、薬の副作用が隠れていることがある、ということです。

芍薬甘草湯の効果と副作用を対比した図。効果はペオニフロリンとグリチルリチンによる筋細胞へのカルシウム流入の急速遮断で数分のうちに発現する一方、グリチルリチンが酵素11β-HSD2を阻害して偽アルドステロン症を起こし、ナトリウム貯留による高血圧とカリウムの過剰排泄を招く。低カリウム血症が神経の興奮性を高めて逆に痙攣を悪化・誘発させる悪循環に陥るため、漫然とした長期連用は避ける
よく効く薬。ただし飲み続けると、低カリウム血症を通じて「つりやすい体」を作る

したがって、原則は「頓服」です。 つったとき、またはつりそうなときだけ飲む。予防のために毎日飲む、チームでまとめて配って常用させる、という使い方は避けてください。長期に使う必要があるなら、血液中のカリウム値を定期的に確認しながらにしてください。

もう1つ、書いておかなければならないことがあります。この薬をスポーツ選手の運動中の痙攣に対して検証したランダム化比較試験は、調べた限り見当たりません。 有効性の報告は透析患者や高齢者、腰部脊柱管狭窄症の患者を対象としたものが中心です。「日本でよく使われている」ことと「高校生の試合中の痙攣に対して有効性が証明されている」ことは、別のことです。

9. 予防:つりやすさは「その日」ではなく「それまで」で決まる

予防の話をします。ここまでの内容を踏まえると、やるべきことは自然に決まります。

① いちばん強い予測因子は「過去につったこと」

前向き研究で一貫して浮かび上がるリスク因子が、痙攣の既往です。これは裏を返せば、つりやすい選手は個体として特定できるということです。

チームで「誰がつるか」は、だいたい決まっているはずです。その選手には、次に挙げる対策を個別に適用してください。全体練習で全員に水を配るより、はるかに効率的です。

② 「いつもより速いペース」を作らない

もう1つの一貫したリスク因子が、普段より高い強度で動いていることです。トライアスロンでもウルトラマラソンでも、これが予測因子でした。

サッカーに翻訳すると、こうなります。

  • 格上との試合、負けられない一戦で、前半から飛ばしすぎる
  • 久しぶりの公式戦で、練習では出していない強度を出す
  • 連戦の中で、回復しきらないまま同じ強度を求められる

つまり、痙攣は「その日の水分量」ではなく「その日までの積み上げと、その日の出力の落差」で起きます。 予選のような一発勝負で痙攣が増えるのは、この落差が最大になるからです。

③ レース前の筋損傷を持ち込まない

ウルトラマラソンの研究では、スタート時点ですでにあった筋の損傷がリスク因子でした。

サッカーでは、試合の前日や2日前に追い込みすぎることがこれに当たります。「不安だから前日に走り込む」は、痙攣という観点からは逆効果です。試合前日の過ごし方は試合前日の睡眠の記事勝負メシの記事でそれぞれ扱っています。

④ 疲労の蓄積そのものを管理する

痙攣が「疲労した筋肉の制御不全」である以上、疲労管理が最大の予防になります。連戦の合間の回復、練習量の設計、睡眠。特別なことではありませんが、これが本丸です(オーバートレーニング症候群の記事)。

⑤ ストレッチについて、正直なところ

「予防のためにストレッチをしましょう」と言いたいところですが、ここは正直に書きます。

健常者を対象に、人工的に痙攣を起こす閾値を測定した研究では、運動前のストレッチ(PNFを含む)は、痙攣の起こりやすさを急性には変えませんでした。 つまり「試合前にストレッチしたから今日はつらない」という効果は、証明されていません。

ただし、就寝前の持続的なストレッチは、夜間のこむら返りの長期的な管理として推奨されています。また、ストレッチには柔軟性の維持やケガの予防という別の価値があります。「痙攣の予防としては過大な期待をしない。ただしやめる理由もない」というのが公平な整理です。

⑥ 汗に塩を吹くタイプなら、塩分を意識する

第5節のとおりです。練習後にユニフォームが白くなる選手は、この一群に当たる可能性があります。この選手たちに限っては、ナトリウムの補給を意識する価値があります。

⑦ 暑熱順化

暑さに体を慣らしておくと、汗の中の塩分濃度が下がり、体温調節も効率化します。痙攣に対する直接の証拠は限定的ですが、熱中症の予防としては確立した方法です(熱中症対策の記事)。

10. つっただけでは済まないとき——見逃してはいけないサイン

最後に、救急医として最も書きたかったところです。

足がつることの99%は、心配のいらない現象です。 その場で伸ばせば治まり、後を引きません。ただし、残りのわずかな中に、命や腎臓に関わるものが混ざっています。 現場の大人が知っておくべきサインを挙げます。

① 尿がコーラのような色になったら:横紋筋融解症

激しい運動で筋肉の細胞が壊れると、中身のミオグロビンという色素が血液に漏れ出し、尿に出てきます。これが濃い茶色〜コーラ色の尿として現れます。

  • 筋肉の痛みや腫れが、数日たっても引かない
  • 力が入らない、脱力感が続く
  • 尿の色が濃い、量が減った

これらは横紋筋融解症のサインです。壊れた筋肉から出た物質が腎臓に詰まり、急性腎障害を起こすことがあります。厄介なのは、運動の1〜3日後に遅れて出てくることがある点です。試合当日に元気でも、翌々日に色の濃い尿が出たら受診してください。診断は血液中のCK(筋肉が壊れると上がる酵素)を測って初めて確定します。見た目では判断できません。

なお、痛み止め(ロキソプロフェンなどの消炎鎮痛薬)を飲んで炎天下で運動することは、脱水と暑さが重なった状況で腎臓への負担をさらに増やします。「痛み止めを飲んででも出る」という判断は、この点でも危険です。この問題は稿を改めて詳しく扱います。

② 意識がおかしい、まっすぐ歩けない:労作性熱射病

暑い環境で、痙攣と一緒に次のような様子があれば、その場で救急要請してください。

  • 呼びかけへの反応が鈍い、言動がちぐはぐ
  • まっすぐ歩けない、ふらつく
  • けいれん(全身のひきつけ)
  • 汗が止まっている、皮膚が異常に熱い

労作性熱射病は、深部体温が40℃を超え、脳の機能に異常が出た状態です。若いアスリートの死因として最も重大なもののひとつであり、分単位で予後が変わります。

対応の原則は 「Cool First, Transport Second(冷やしてから運ぶ)」 です。救急車を待つあいだも、氷水に浸ける・全身に水をかけ続けるなど、その場で冷やし続けてください。 詳しくは熱中症対策の記事インターハイの暑熱対策の記事に書いています。

「足がつっただけ」に見えた選手が、実は熱射病の入り口にいた——という取り違えは、実際に起こります。暑い日に痙攣が出たら、意識と歩行を必ず確認する。 これを習慣にしてください。

③ 治まらない、力が入らない:肉離れかもしれない

痙攣と肉離れは、現場では見分けがつきにくいことがあります。

痙攣 肉離れ
発症 徐々に強くなることが多い 「ピキッ」「ブチッ」と瞬間的
伸ばすと 和らぐ より痛くなる
治まった後 違和感は残るが動ける 押すと一点が痛い、力が入らない
数日後 残らない 腫れ・内出血が出ることがある

伸ばして悪化するなら、痙攣ではありません。 その場合は伸ばすのをやめ、動かさずに冷やして受診してください。

④ 運動と関係なく、繰り返しつる場合

高校生ではまれですが、次のような場合は一度相談してください。

  • 運動していない日の夜中に、頻繁につる
  • 片脚だけが繰り返しつる
  • しびれや感覚の異常を伴う
  • 手や体幹など、足以外もつる

甲状腺の機能異常、電解質の異常、神経の病気などが隠れていることがあります。また、むずむず脚症候群という別の病気が混同されることがよくあります。こちらは「脚を動かしたい強い衝動」が主体で、筋肉は硬くならず、歩くと楽になるのが特徴です。痙攣とは治療がまったく違うので、区別が必要です。

まとめ

  • 足がつるのは水の問題ではなく神経の問題。疲れた筋肉で「縮め」の信号が過剰になり、「ゆるめろ」の信号が弱まった状態
  • 脱水・電解質喪失説は前向き研究に支持されなかった。 トライアスロン選手210名で痙攣を予測したのは、脱水でも血清ナトリウムでもなく、いつもより速いペース過去の痙攣歴
  • ただし「電解質は無関係」は行き過ぎ。汗に塩分を多く失うタイプの選手では補給が効く。「水分と塩分だけでは説明も予防もできない」が正確
  • その場では伸ばす。膝を伸ばしたままつま先を手前に引く。揉むより確実で、理屈にも合っている
  • マグネシウムのサプリは推奨されない(11試験735名のメタ解析でプラセボと差なし)
  • 芍薬甘草湯は頓服が原則。毎日飲ませない。 甘草6g/日で偽アルドステロン症は約11.1%。低カリウム血症は、それ自体がつりやすさを生む
  • 予防の本丸は疲労管理とペース配分。「その日の水分量」ではなく「その日までの積み上げ」で決まる
  • コーラ色の尿は横紋筋融解症、意識と歩行の異常は労作性熱射病。 この2つだけは見逃さない

痙攣は、選手にとっては「情けない」出来事として受け取られがちです。あと10分走りたかったのに、脚が言うことを聞かなくなる。根性が足りないと言われることもある。

けれど、ここまで読んでいただいたとおり、あれは根性の問題ではありません。 疲労した筋肉が、自分を守るための安全装置を一時的に見失っている状態です。責めても解決しませんし、水を飲ませても防げません。その選手がその日までにどれだけ積み上げ、どれだけ回復できていたか——見るべきはそこです。

予選が始まりました。連戦の中で、ベンチから「水飲め」と叫ぶ代わりに、この記事の中身を1つでも思い出していただけたら嬉しく思います。

※本記事の図解3点は、当サイトが収集・整理した医学資料をもとに Google Gemini で作成したものです。

暑さそのものへの備えは熱中症対策真夏の水分補給、連戦の食事は勝負メシ、練習量の設計はオーバートレーニング症候群、太もも裏の肉離れはこちらの記事でそれぞれ扱っています。

※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。痙攣が繰り返す場合や、本文中の危険なサインがある場合は必ず医療機関を受診し、緊急時は119番を要請してください。薬(芍薬甘草湯を含む)の使用は、必ず医師・薬剤師にご相談ください。内容は執筆時点で参照可能な原著論文・システマティックレビュー・公的機関の情報に基づいています。

よくある質問

Q. 足がつるのは、水分不足・塩分不足が原因ではないのですか?

A. 「それだけが原因」ではありません。かつては発汗による脱水と電解質の喪失が主因と考えられていましたが、実際に選手を追跡した前向き研究がこれを支持しませんでした。アイアンマン・トライアスロン選手210名を対象にした研究では、痙攣を起こした選手と起こさなかった選手のあいだで脱水の程度や血清ナトリウムの変化に差がなく、痙攣を予測したのは「いつもより速いペースで走っていたこと」と「過去に痙攣を起こした経験があること」の2つでした。56kmのウルトラマラソンでも、速いペースとレース前からの筋の損傷がリスク因子でした。ただし2019年以降のレビューは、単一の機序ですべての痙攣を説明することはできず、ペース配分・神経筋疲労・電解質のいずれもが寄与しうると整理しています。汗に含まれる塩分の量には個人差が大きく、大量に汗をかいて塩分を失うタイプの選手では、ナトリウムの補給が効くことがあります。「水分と塩分は無意味」ではなく、「水分と塩分だけでは説明も予防もできない」というのが現在の理解です。

Q. 試合中につったとき、どうすればいちばん早く治まりますか?

A. つった筋肉を、ゆっくり伸ばしてください。ふくらはぎなら、膝を伸ばしたまま足の指とつま先を自分のすねのほうへ引き寄せます。他人にやってもらう場合も、反動をつけず、痛みが和らぐ位置で20〜30秒保ちます。揉んだり叩いたりするより、伸ばすほうが確実です。理由は、痙攣が「筋肉そのものの異常」ではなく「筋肉を止める神経の信号が弱まった状態」だからです。筋肉と腱のつなぎ目にあるゴルジ腱器官という受容器は、腱が引き伸ばされると『力がかかりすぎている、ゆるめろ』という抑制の信号を出します。伸ばす行為は、この止めるための信号を人の手で作り直す作業にあたります。治まった直後にすぐ全力に戻すと再発しやすいので、歩ける状態まで戻してから、段階的に強度を上げてください。同じ場所が繰り返しつく、力が入らない、押すと強い痛みがあるという場合は、痙攣ではなく肉離れが起きている可能性があります。

Q. 芍薬甘草湯を毎日飲んで予防してもいいですか?

A. 毎日の予防内服はおすすめしません。頓服(つったとき、またはつりそうなときだけ飲む)が原則です。芍薬甘草湯は数分から15分程度で効くことがある薬で、日本では広く使われていますが、含まれる甘草(かんぞう)のグリチルリチンには、体内のカリウムを尿に捨てさせる作用があります。これが続くと偽アルドステロン症と呼ばれる状態になり、血圧の上昇、むくみ、そして低カリウム血症が起こります。甘草の1日量が増えるほど頻度が上がり、1gで約1.0%、2gで約1.7%、4gで約3.3%、6gで約11.1%と報告されています。医療用の芍薬甘草湯を1日3包飲むと甘草は6gに相当します。そして厄介なことに、低カリウム血症そのものが筋肉をつりやすくします。予防のつもりで飲み続けて、かえってつりやすい体を作ってしまうという逆転が起こりうるのです。なお、この薬をスポーツ選手の運動中の痙攣に対して検証したランダム化比較試験は見当たりません。チームでまとめて配る、毎日飲ませるといった使い方は避けてください。

Q. つった後、病院に行ったほうがいいのはどんなときですか?

A. 次のどれかがあれば受診してください。まず、尿が濃い茶色やコーラのような色になったとき。これは壊れた筋肉から出るミオグロビンという色素によるもので、横紋筋融解症のサインです。腎臓に負担がかかるため、運動の1〜3日後に出てくることもあります。次に、意識がぼんやりする・言動がおかしい・まっすぐ歩けない・けいれんするといった様子があるとき。暑い環境でこれが起きていれば労作性熱射病を疑い、その場で体を冷やしながら救急要請してください。命に関わります。また、筋肉の痛みや腫れが数日たっても引かない、力が入らない、水を飲めないほど吐き気が強いという場合も受診が必要です。日常的な範囲でも、運動と関係なく夜中に頻繁につる、片脚だけ繰り返す、しびれや感覚の異常を伴うという場合は、別の原因が隠れていることがあるので一度相談してください。単に痙攣を繰り返す高校生の大半は問題ありませんが、上記のサインだけは覚えておいてください。

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