痛み止めを飲んで試合に出る前に|NSAIDsのリスクを救急医が解説

FIFAの調査では、成人男子の世界大会で選手のおよそ7割が何らかの薬を使い、半数以上がNSAIDs(痛み止め)でした。U-17・U-20でも4割強が使っています。この薬は、脱水と暑さが重なると腎臓への血流を断ち切る方向に働きます。一方で「骨の治りが遅くなる」という説は、交絡を調整すると差が消えます。確実に危ないことと、まだ分かっていないことを分けて、救急科専門医が整理します。

痛み止めを飲んで試合に出る前に|NSAIDsのリスクを救急医が解説

【この記事の要約】 FIFAの調査では、成人男子の世界大会で選手のおよそ7割が何らかの薬を使い、半数以上がNSAIDs(痛み止め)でした。U-17・U-20でも4割強が使っています。この薬は、脱水と暑さが重なると腎臓への血流を断ち切る方向に働き、水分を体に溜め込ませて低ナトリウム血症を悪化させます。一方で、よく言われる「骨の治りが遅くなる」は、条件をそろえて比べ直すと差が消えます(調整後オッズ比1.11)。確実に危ないことと、まだ分かっていないことを分けて整理します。結論を先に言えば、最も確実な危険は薬の作用ではなく、「痛みという警告を消したまま走ること」そのものです。

選手権予選が佳境です。この時期、どのチームにも必ずいます。「痛み止め飲んだんで、いけます」と言う選手が。

そして多くの場合、周囲の大人はそれを止めません。むしろ「よく頑張った」と評価されることすらあります。ここが、今回書きたいことの出発点です。

救急外来で痛み止めそのものが原因で運ばれてくる高校生は、多くはありません。しかし私たちが見るのは、その先です。夏の連戦の後に、濃い色の尿が出て受診する選手。痛みを抱えたまま走り続けて、疲労骨折が完全に折れてしまった選手。

そして、情報が偏りがちな分野でもあります。「痛み止めは体に悪い」という言い方も、「あれくらい大丈夫」という言い方も、どちらも雑です。この記事では、確実に危ないことと、まだ分かっていないことを分けて書きます。

1. どれくらい飲まれているのか

まず、この問題の規模から。

FIFAは2002年以降、国際大会での選手の服薬を記録してきました。チームドクターが大会ごとに報告する形式で、そこから見えてきた数字は、率直に言って衝撃的です。

成人男子の世界大会では、

  • 選手のおよそ7割が、大会中に何らかの薬を使っていた
  • そのうち半数以上がNSAIDs(痛み止め・抗炎症薬)
  • そして最大で3人に1人が、出場するかどうかにかかわらず毎試合前にNSAIDsを飲んでいた

最後の1行が重要です。「痛いから飲む」ではなく、痛くなるかもしれないから、試合前に習慣として飲むという使い方が、トップレベルで常態化しているということです。

そして、若年層も例外ではありません。

U-17・U-20の世界大会では、

  • 約60%が何らかの薬を使用
  • 43%がNSAIDsを使用
  • 試合前に飲んでいた選手も、U-17で約17%、U-20で約21%

高校年代とほぼ同じ世代です。世界大会に出るレベルの選手の5人に1人が、試合前に痛み止めを飲んでいる。 彼らを目標にする日本の高校生が、同じことをしても不思議はありません。

念のため書いておくと、NSAIDsはドーピングの禁止物質ではありません。 飲んでも違反になりません。だからこそ広がったとも言えます。「禁止されていない」ことと「安全である」ことは、別の話です。 この記事はドーピングの話ではなく、体に何が起きるかの話です。

FIFAの調査による痛み止めの使用状況。成人男子の世界大会では選手のおよそ7割が大会中に何らかの薬を使い、そのうち半数以上がNSAIDsで、最大で3人に1人が出場するかどうかにかかわらず毎試合前に服用していた。U-17・U-20の世界大会でも約60%が何らかの薬を使い43%がNSAIDsを使用、試合前に飲んでいたのはU-17で約17%、U-20で約21%。NSAIDsはドーピングの禁止物質ではないが、禁止されていないことと安全であることは別の話
世界大会に出るレベルでも、若い世代ほど試合前の服用は少ない。ただしゼロではない

2. NSAIDsは何をしている薬か

NSAIDs(エヌセイズ、非ステロイド性抗炎症薬)は、ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナク、アスピリンなどの総称です。商品名で言えばロキソニン、イブ、ボルタレンなどがこれにあたります。

この薬がやっていることは、1つです。体内で「プロスタグランジン」という物質が作られるのを止めること。

プロスタグランジンは、痛みを強め、炎症を起こし、熱を上げる物質です。だからその産生を止めれば、痛みが引き、腫れが抑えられ、熱が下がります。これがNSAIDsの効果です。

問題は、プロスタグランジンがそれ以外の仕事もしていることです。

プロスタグランジンの仕事 NSAIDsで止めると
痛み・炎症・発熱を起こす 効果:痛みが引く、腫れが引く
腎臓に血液を入れる血管を広げる 副作用:腎臓への血流が減る
腎臓で水を出しすぎないよう調整する 副作用:水を溜め込む
胃の粘膜を守る 副作用:胃が荒れる
組織の修復の初期段階を進める 副作用:治癒が遅れる可能性

つまりNSAIDsは「痛みだけを止める薬」ではなく、プロスタグランジンの仕事をまとめて止める薬です。欲しい効果と要らない副作用が、同じ仕組みから出てきます。

以下、この表の上から3つを順に見ていきます。最初の2つは確実に危ない話、3つ目以降は慎重に扱うべき話です。

3. 危険の本丸①:脱水+暑さ+NSAIDs

いちばん重要な節です。ここだけでも覚えて帰ってください。

運動中、腎臓は綱渡りをしている

激しい試合中、体の中では次のことが起きています。

  • 大量の汗で、血液の量が減る
  • 心臓から送り出される血液は、筋肉と皮膚(放熱のため)に優先的に回される
  • その結果、腎臓に行く血液は減る

腎臓は血液を濾過して尿を作る臓器なので、血流が減ればその働きが落ちます。そこで体は、2つの調整を同時にかけて、濾過の圧力をなんとか保とうとします。

調整① 出口を絞る 血液量の低下を感知すると、ホルモン(アンジオテンシンII)が働いて、腎臓から血液が出ていく側の血管を収縮させます。出口を細くすれば、中の圧力が上がって濾過が続けられます。

調整② 入口を広げる 同時に、腎臓の中でプロスタグランジンが作られ、血液が入ってくる側の血管を広げます。 入口を広げておかないと、出口を絞った分だけ腎臓が血液不足(虚血)に陥ってしまうからです。

「出口を絞り、入口を広げる」。 この絶妙なバランスで、運動中の腎臓はぎりぎり機能を保っています。

NSAIDsは、入口を広げる側だけを止める

ここにNSAIDsが入ると、どうなるか。

プロスタグランジンの産生が止まるので、入口を広げる働きだけが失われます。 出口を絞るホルモンのほうは、そのまま働き続けます。

結果として、

  1. 血液そのものが足りない(脱水)
  2. 出口が絞られている(体の正常な反応)
  3. 入口も絞られる(NSAIDsの作用)

この3つが重なり、腎臓への血流が断たれます。 この状態が続くと腎臓の組織が酸素不足に陥り、急性腎障害へ進みます。

高齢者が、血圧の薬と利尿薬とNSAIDsを一緒に飲んで腎臓を悪くする「トリプルワミー(三重打撃)」という現象が知られていますが、激しい運動をしている若い選手の体の中では、それとよく似た状態が薬なしで作られてしまうのです。そこにNSAIDsが加われば、同じ結末に近づきます。

現場で危ないのは、この組み合わせ

  • 夏の連戦、炎天下の試合
  • 延長戦・PK戦までもつれる長時間の試合
  • 合宿中
  • そこにNSAIDsの服用が重なったとき

サイン:試合後から翌日にかけて、尿の量が減る、尿の色が濃い(茶色やコーラ色なら特に)、だるさが抜けない、吐き気がある。こうした場合は受診してください。

運動中の腎臓の血流とNSAIDsの作用を示す図。通常の運動中は汗で血液量が減る中、体が腎臓から血液が出る側の出口を絞って圧力を保ち、同時にプロスタグランジンが血液の入る側の入口を広げて血流を確保している。NSAIDsを飲むとこの入口を広げる物質の産生が止まり、入口を広げる働きだけが失われる。結果として、血液が足りない・出口が絞られている・入口も絞られるの3つが重なり腎臓への血流が断たれる。危ない組み合わせは夏の連戦、炎天下、延長戦・PK戦、合宿中
「出口を絞り、入口を広げる」で保たれている綱渡り。薬は入口側だけを止める

なお、濃い色の尿は横紋筋融解症のサインでもあります。どちらにせよ、受診が必要な所見です。暑さそのものへの備えは熱中症対策の記事に書いています。

4. 危険の本丸②:水を飲んだのに、出せなくなる

もう一つ、見落とされがちな危険があります。

足がつる記事と水分補給の記事で触れた運動関連低ナトリウム血症です。血液中のナトリウムが薄まりすぎる状態で、重症になると脳がむくみ、意識障害やけいれんを起こします。

通常、水を飲みすぎても、腎臓は余分な水を尿として出せます。健康な腎臓は1時間に1リットル近い水を排出できます。 だから単純な飲みすぎだけで重症になることは、あまりありません。

問題は、運動中に「水を出すな」という指令が出てしまうことです。長時間の運動、暑さ、精神的ストレス、そして痛み——これらはすべて、本来の調整を無視して抗利尿ホルモンを分泌させます。体は水を溜め込むモードに入ります。

それでも、体には歯止めがあります。腎臓の中のプロスタグランジンが、このホルモンの効きすぎを抑えるブレーキとして働いているのです。

NSAIDsは、このブレーキを外します。

  • 抗利尿ホルモンが出ている(運動・暑さ・痛みのせい)
  • ブレーキが外れている(NSAIDsのせい)
  • そこに水を大量に飲む

この3つが揃うと、飲んだ水が体から出ていかず、血液が急速に薄まります。 トライアスロンなどの長時間競技では、NSAIDsを使った選手で低ナトリウム血症が多いことが報告されています。

高校サッカーで同じ条件が揃うのは、夏の連戦、延長戦、そして「熱中症が怖いから」と水を多めに飲んでいるときです。水をしっかり飲むこと自体は正しいのですが、そこにNSAIDsが加わると意味が変わります。

5. 危険の本丸③:痛みという情報を消す

ここまでは薬の作用の話でした。3つ目は、もっと単純で、もっと確実な話です。

痛みは、体からの情報です。「この組織はいま限界に近い」「これ以上やると壊れる」という警告信号です。

NSAIDsを飲んで試合に出るというのは、その警告を消して全力で走るということです。

警告が消えても、組織の状態は変わりません。むしろ、

  • 痛くないので全力で踏み込める
  • 痛くないのでかばわずに体重をかけられる
  • 痛くないので最後まで出続けられる

結果として、軽い損傷が重い損傷に変わります。

典型例を挙げます。

  • 疲労骨折:ひびの段階で痛みを消して走り続け、完全に折れる。サッカーで最も怖いのは第5中足骨(シンスプリントと疲労骨折の記事で詳しく扱っています)
  • 肉離れ:違和感の段階で消して走り、大きく断裂する(ハムストリングの記事)
  • かばい動作による二次被害:痛む側をかばった結果、反対側や腰を痛める

さらに、痛みを消すことには見落としがちな副作用があります。診断が遅れることです。「薬を飲めば動けるから」と受診を先延ばしにしているうちに、本来なら軽く済んだものが重くなります。

この3つ目こそが、この記事で最も確実に言えるリスクです。 薬理学の議論ではなく、論理の問題だからです。

痛み止めで痛みという警告を消したときに起きることの流れ図。出発点は痛みが「これ以上やると壊れる」という体からの情報であること。薬で消すと、痛くないので全力で踏み込める・かばわずに体重をかけられる・最後まで出続けられる。その結果、軽い損傷が重い損傷に変わる。具体例は疲労骨折がひびから完全骨折へ、肉離れが違和感から断裂へ、痛む側をかばって反対側の足や腰を痛める。もう1つの害として受診が遅れることがある
薬理ではなく論理の問題。警告を消せば、その向こうで損傷が進む

6.「治りが遅くなる」は、どこまで本当か

さて、ここからは慎重に書きます。よく誇張されて伝わっている部分だからです。

「NSAIDsを飲むと骨がつかない」「筋肉が治らない」という話を聞いたことがあるかもしれません。理屈はこうです。炎症は不快な現象ですが、同時に治癒の第一段階でもあります。 壊れた組織を片づけ、新しい血管を呼び、修復する細胞を集める——その号令をかけているのがプロスタグランジンです。NSAIDsはそれを止めるのだから、治癒も止まるのではないか。

理屈としては筋が通っています。問題は、データがそこまで言えていないことです。

骨について:調整すると差が消える

2024年に発表された系統的レビューとメタ解析は、20研究・約52万人を統合しました。結果は次のとおりです。

骨がつかない・つきにくいリスク
単純に比較すると オッズ比 1.98(95%信頼区間 1.29〜3.06)=約2倍
年齢や骨折の重症度などの条件をそろえると オッズ比 1.11(95%信頼区間 0.99〜1.23)=有意差なし

著者らの結論は「NSAIDsが骨癒合に与える影響は最小限かもしれない」というものでした。

なぜ単純比較では差が出るのか。考えられるのは、痛みが強い人ほど薬を飲むということです。そして痛みが強い骨折は、もともと重症で治りにくい。薬のせいに見えて、実は骨折の重さのせいだった——という可能性が、調整後に差が消えた理由として挙げられます。

筋肉について:実験の条件に注意が要る

筋肉の再生についても、NSAIDsが修復細胞(サテライト細胞)の増殖を抑えるという報告があります。ただし、人を対象にした代表的な実験は薬を点滴で持続的に入れるという方法で行われており、普通に飲む場合と同じ条件とは言えません。

では、どう理解すればよいか

正直に書きます。

「NSAIDsのせいで治らなくなる」と断定することは、現在のデータではできません。

ただし、「痛みを消したまま使い続ければ悪化する」ことは確実です。

治りが遅れる本当の原因は、多くの場合、薬の分子レベルの作用ではなく、薬のおかげで無理ができてしまったことのほうです。どちらにせよ結論は変わりませんが、理由を正確に理解しているかどうかで、判断の質は変わります。

痛み止めが骨の治りに与える影響についての2024年のメタ解析(20研究・約52万人)の結果。単純に比較した場合はオッズ比1.98(95%信頼区間1.29〜3.06)で約2倍に見えるが、年齢や骨折の重症度などの条件をそろえた場合はオッズ比1.11(95%信頼区間0.99〜1.23)となり有意差が消える。考えられる理由は、痛みが強い人ほど薬を飲み、痛みが強い骨折はもともと治りにくいこと。薬のせいで治らないとは現在のデータでは断定できない
同じデータでも、条件のそろえ方で見え方が変わる。横線が1.0をまたげば「差なし」

なお、捻挫などの急性のケガの管理は、近年「RICE」から「PEACE & LOVE」へと考え方が更新されており、その中でも急性期の抗炎症薬は推奨されていません(足首捻挫の記事で扱っています)。

7. 日本の事情——高校生は、自分で買える

ここは日本特有の論点です。

日本では、高校生でもドラッグストアで痛み止めを買えます。 処方箋は要りません。価格も数百円です。つまり、大人が知らないところで、選手が自分の判断で飲める状態にあるということです。

ここから、いくつか現実的な問題が出てきます。

① 重ねて飲んでしまう 市販の痛み止めには、総合感冒薬や生理痛の薬など、別の名前でNSAIDsが入っているものがあります。「頭痛薬」と「風邪薬」を一緒に飲んで、同じ成分を二重に摂ってしまう事故が起こりえます。

② 用量を守らない 「効かないからもう1錠」。空腹時に飲む。これは胃を荒らす典型的なパターンです。

③ チームで配る 部室に常備して誰でも飲める状態にする、マネージャーが配る、といった運用です。誰がいつ何を飲んだか分からなくなります。 そして、アレルギーや持病のある選手が混ざっていても気づけません。

この記事を保護者・指導者の方に読んでいただきたい理由が、ここにあります。 選手が自分で買えてしまう以上、「飲むな」と禁じるより、どういう場面で危ないのかを共有しておくほうが現実的です。

8. ではどう使うか——避ける場面と、飲んでよい場面

ここまでを踏まえた整理です。

避けるべき場面

場面 理由
試合前・練習前に「痛みを消して出るため」 警告を消して無理をする。すべてのリスクがここに集まる
夏の連戦、炎天下、延長戦、合宿中 脱水+暑さと重なると腎臓への血流が断たれる
水を大量に飲んでいる状況 低ナトリウム血症のリスクが上がる
疲労骨折が疑われる痛み(2週間以上続く、一点が痛む) 痛みを消して走り続けることが、最も確実に悪化させる
痛みの原因が分からないまま まず診断。薬で蓋をしない

飲んでよい場面

いずれも、運動と切り離された場面であることが共通点です。

  1. 運動しない日の、頭痛・歯痛・生理痛など 脱水も暑熱もない状態なら、腎臓へのリスクは低く、通常の用量で問題ありません。なお、生理痛が毎回つらい場合は、薬で抑え続けるより婦人科で相談するほうが解決に近づきます
  2. 手術後や重いケガの直後に、医師の判断で短期間 痛みで眠れない、という状態は回復を妨げます。数日単位で使うことには意味があります
  3. 医師の管理のもとで、特定の炎症性の病気をコントロールする場合

共通して守ること

  • 用量と回数を守る。空腹時に飲まない
  • 連日飲み続けない。 数日飲んでも痛みが引かないなら、それは受診のサインです
  • 飲んだことを大人に伝える
NSAIDsを避けるべき場面と飲んでよい場面の対比表。避けるべきは、試合前・練習前に痛みを消して出るため、夏の連戦や炎天下や延長戦や合宿中、水を大量に飲んでいる状況、疲労骨折が疑われる痛み(2週間以上続く・一点を押すと痛む)、痛みの原因が分からないまま。飲んでよいのは、運動しない日の頭痛・歯痛・生理痛、手術後や重いケガの直後に医師の判断で短期間、医師の管理下で炎症性の病気をコントロールする場合。共通して守ることは用量と回数を守る、空腹時に飲まない、連日飲み続けない、飲んだことを大人に伝える
「飲んでよい場面」に共通するのは、運動と切り離されていること

9. 代わりに何を使うか

「では痛いときはどうするのか」。選択肢を整理します。

アセトアミノフェン(カロナールなど)——第一選択

運動する日に鎮痛が必要なら、まずこちらです。

アセトアミノフェンは主に脳に作用して痛みの感じ方を抑える薬で、腎臓の血管を広げるプロスタグランジンの働きをほとんど邪魔しません。 そのため、

  • 腎臓への血流を減らしにくい
  • 水を溜め込ませる作用がない
  • 胃を荒らしにくい
  • 組織の修復に必要な炎症を止めない

という特徴があります。腎臓の病気がある人の鎮痛薬としても使われるくらいで、脱水のリスクがある場面での安全性は、NSAIDsより明らかに高いと言えます。

注意点:腫れを抑える作用はほとんどありません。そして量を超えると肝臓を傷めます。 総合感冒薬にも含まれていることが多いので、重複に注意してください。

塗り薬・湿布(外用のNSAIDs)——限定的に有効

皮膚から吸収される外用薬は、血液中に入る量が飲み薬の数十分の1以下です。そのため腎臓や胃への影響は実質的に問題になりません。特定の関節や腱の、限られた範囲の痛みには現実的な選択肢です。

ただし、広い範囲に長期間貼り続けることは避けてください。

アイシング——使い方が変わってきています

かつては「ケガをしたらとにかく冷やす」でしたが、現在は見方が変わりつつあります。冷やすことには痛みを和らげる効果がある一方で、修復に必要な血流や細胞の動きを遅らせる可能性が指摘されているためです。

ただし、ここも誇張は禁物です。既存の足首捻挫の記事にも書いたとおり、痛みが強いときに短時間あてる程度なら問題ありません。 避けたいのは「何日も氷漬けにする」というルーチン化のほうです。

そして、いちばん効くもの

身も蓋もありませんが、痛みの原因を取り除くことです。 負荷を落とす、休む、フォームを直す、診断をつける。薬はそのあいだの時間を稼ぐ道具であって、治療ではありません。

痛みへの4つの対処法の使い分け。アセトアミノフェンは腎臓の血流を減らしにくく水を溜め込ませず胃を荒らしにくく修復に必要な炎症を止めないため、運動する日に鎮痛が必要なときの第一選択だが、腫れを抑える作用はほとんどなく量を超えると肝臓を傷める。塗り薬・湿布は血液中に入る量が飲み薬の数十分の1以下で腎臓や胃への影響は実質的に問題にならず、限られた範囲の痛みに使う。NSAIDsの飲み薬は運動と切り離された場面に限る。アイシングは痛みが強いときに短時間なら問題ないが、何日も氷漬けにするのは避ける
運動する日に鎮痛が必要なら、まずアセトアミノフェン

まとめ

  • FIFAの調査では、成人男子の世界大会でおよそ7割が服薬、半数以上がNSAIDs。最大3人に1人が毎試合前に飲んでいた。U-17・U-20でも43%が使用
  • NSAIDsはドーピング禁止物質ではない。 だが「禁止されていない」と「安全」は別の話
  • 確実な危険①:脱水+暑さ+NSAIDs。腎臓は「出口を絞り入口を広げて」血流を保っているが、薬は入口を広げる側だけを止める。夏の連戦・延長戦が最も危ない
  • 確実な危険②:水を溜め込むブレーキが外れ、低ナトリウム血症が悪化する
  • 確実な危険③:痛みという警告を消すこと。 疲労骨折も肉離れも、ここで悪化する。これが最も確実なリスク
  • 「骨の治りが遅くなる」は確定していない。 52万人のメタ解析で、条件をそろえると差は消えた(調整後オッズ比1.11)
  • 運動する日に鎮痛が必要ならアセトアミノフェン。局所の痛みには外用薬
  • 日本では高校生が自分で買える。 だからこそ、禁じるより「どの場面が危ないか」を共有する

この記事で一番伝えたかったのは、痛み止めが悪者だということではありません。

痛み止めは、正しく使えばよい薬です。問題は、使い方が「痛みを消して試合に出る」という一点に集中していること、そしてそれが評価されてしまう文化があることです。

痛みは、体が出している唯一の警告です。消していいのは、その警告を受け取って、何が起きているか分かったあとです。順番が逆になると、消した警告の向こうで、取り返しのつかないことが進みます。

予選はまだ続きます。「飲めば出られる」という選択肢の前に、この記事のどれか1つでも思い出していただけたら嬉しく思います。

※本記事の図解6点は、当サイトが収集・整理した医学資料をもとに Google Gemini で作成したものです。

関連する記事もあわせてどうぞ。暑さと脱水は熱中症対策と真夏の水分補給、低ナトリウム血症と濃い尿は足がつる記事、疲労骨折はシンスプリントの記事、肉離れはハムストリングの記事、急性期の処置は足首捻挫の記事、連戦の疲労管理は中2日のリカバリーで扱っています。

※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。薬の使用については必ず医師・薬剤師にご相談ください。痛みが2週間以上続く場合、一点を押すと強く痛む場合、試合後に尿の色が濃い・量が減る場合は医療機関を受診してください。内容は執筆時点で参照可能な原著論文・システマティックレビュー・公的機関の情報に基づいています。

よくある質問

Q. 試合前に痛み止めを飲むのはダメですか?

A. 「痛みを消して出るため」に飲むのは、やめてください。理由は2つあります。1つは体への直接の危険です。激しい運動中は汗で血液量が減り、体は腎臓の血管を調整して血流をなんとか保っています。NSAIDsはこの調整の片方(腎臓に血液を入れる側の血管を広げる働き)を止めてしまうため、脱水と暑さが重なった状況では腎臓への血流が断たれ、急性腎障害につながることがあります。もう1つは、痛みという情報を消してしまうことです。痛みは「これ以上やると壊れる」という警告で、消したまま全力で走れば、軽い損傷が重い損傷に変わります。疲労骨折や肉離れが典型です。一方で、医師の判断のもとで短期間使う場面はあります。手術後や重いケガの直後に、痛みで眠れないほどの状態を和らげる場合などです。「運動しない日の痛みを抑える」のと「痛みを消して運動する」のは、まったく別のことだと考えてください。

Q. 「ロキソニンは腎臓に悪い」と聞きましたが、1回飲んだだけでも危ないですか?

A. 条件次第です。十分に水分が足りていて、涼しい環境で、運動もしていない状態であれば、1回の内服で健康な高校生の腎臓が止まることは通常ありません。危険なのは条件が重なったときです。具体的には、①大量に汗をかいて脱水している、②暑い環境にいる、③長時間の運動をしている——この3つが揃った状態での服用です。このとき体の中では、血液量の減少を補うために腎臓の「出口側」の血管が収縮しており、それでも血流を保てているのは「入口側」の血管が広がっているからです。NSAIDsはこの入口側を広げる物質の産生を止めるため、入口と出口の両方が絞られた状態になります。つまり問題は「薬そのものの毒性」ではなく「状況との組み合わせ」です。夏の連戦、延長戦、合宿といった場面での服用が最も危険だと考えてください。また、薬の名前にかかわらず、同じ仲間の薬(イブプロフェン、ジクロフェナクなど)はすべて同じ注意が必要です。

Q. 痛み止めを飲むと怪我の治りが遅くなるというのは本当ですか?

A. 「疑われているが、確定はしていない」が正確なところです。この点はよく誇張して伝えられるので、丁寧にお伝えします。NSAIDsは炎症を抑える薬ですが、炎症そのものは治癒に必要な段階でもあります。そのため理論上は治りを妨げうる、と考えられてきました。しかし2024年に発表された20研究・約52万人を統合したメタ解析では、単純に比較すると骨がつかない・つきにくいリスクは約2倍(オッズ比1.98)でしたが、年齢や骨折の重症度といった条件をそろえて比べ直すと、その差は消えました(オッズ比1.11、95%信頼区間0.99〜1.23)。筋肉の再生についても、ヒトでの実験は薬を持続的に点滴で入れるという特殊な条件でのもので、普通に飲む場合と同じとは限りません。したがって「薬のせいで治らなくなる」と断定することはできません。ただし、これとは別に確実なことがあります。痛みを消したまま運動を続ければ、損傷そのものが悪化するということです。治りを遅らせる本当の原因は、多くの場合そちらです。

Q. 保護者です。痛み止めを常備薬として持たせてもよいですか?

A. 持たせること自体が悪いわけではありませんが、2つ条件を付けてください。1つは「飲む場面を決めておく」ことです。頭痛や歯の痛み、運動しない日の生理痛などに使うのは問題ありません。一方で「試合前」「練習前」「痛いところがあるけれど出たいとき」は、飲ませないでください。もう1つは「痛みが続くなら受診する」ことです。薬で抑えながら数週間プレーを続けている状態は、疲労骨折などが隠れているサインかもしれません。とくに2週間以上続く痛み、一点を押すと痛む痛みは受診の目安です。なお、日本では高校生でも薬局で痛み止めを買えます。チームでまとめて配る、部室に常備して誰でも飲める状態にする、といった運用は避けてください。誰がいつ何を飲んだか分からなくなり、重ねて飲んでしまう事故が起こります。痛みが必要な情報であることを、まず大人が理解しておいてください。

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